はじまりのはじまり
(これの夢主)

「……で、なんであたしがやんなきゃなんないのよ。一応お目付け役よ? あんたらより立場も上なのよ?」
「いや、この中だったら苗字さんが適任かなって思ってさ」

 ……全く、身長は全然変わってないくせに態度だけはデカくなりやがって。ため息を吐いて、周りの3つの顔を見回した。

「まあね、まず詐欺師の件があるから十神が駄目なのは百歩譲って認めるとしてもね? 霧切、あんたがて入ればいいじゃない」
「いいえ、支部長がそれをやるわけにはいかないわ。万が一何かがあったときに責任の所在が不明になるでしょう」
「それじゃあ苗木は」
「……"超高校級の希望"がいなくなるのは、対外的にあまり良くないわ」

 つまり最初から一択って訳。ああもう、……こんなのふざけてる。……思えば第14支部に監視役として派遣されたのだって、そこに私の判断は一切入ってなかったわけだし――指折り数えるまでもない、こんなのどう考えても不運以外の何物でもないでしょ。
 ――さて。ここでごねて外から静観することにするか、それとも大人しく中に入るか。あたしが中に入らないなら、一体誰がプログラムの中に入るのか。十神はない。霧切も絶対首を縦には振らないだろう。……苗木は? いや、あたしが不利益を被ると言うだけで、霧切の言うことは一理どころか百理くらいある。つまり、あたしの感情を除けばあたしが選ばれるのが一番いい選択肢ではあるのだ。というか霧切も苗木も十神も、あたし以外に管理者となりえる人物はいない。……これを受け入れたなら、間違いなく何かしらの不運が生じるだろうけど。それこそ霧切が言う万が一が起こるくらいの不運が、ね。
 それでは、誰も入らなかった場合。プログラムの詳細は軽く月光ヶ原から聞いてはいたけれど、霧切の言う万が一は本来起こり得ないと言ってもいいだろう。――けど、起こってしまう可能性は? 例えば捕らえた絶望の残党が、『幸運にも』絶望したままプログラムに入り込んだら? 例に挙げたのは極端だけれども、選択肢の数を減らされた今、そんな幸運が――あたしにとっての不運が――起こらないわけがない。
 どちらにせよ、不運に見舞われることはほぼ確定だとすると。外からではできることは限られてるけれど、中にいればいくらでも物事を選択する機会はある――つまりは、それだけ幸運に上向けることができる。

「……はー、分かったわよ」

 秤にかければ、大人しく受け入れることの方に傾いた。今更この先の未来が不運に見舞われることなんて分かってるんだから、それなら少しでも、手を出せる方へ。

「その代わり、この件の責任の一切はあんたら3人で負いなさい。それをしないって言うならあの機械に拳銃ぶち込んでついでにあんたら始末して一人で本部に帰るわ」
「ええ、そこは信用してくれて構わないわ」
「……ほんとに?」

 嫌に簡単に要求を飲むのね、とこぼすと、だって苗字さんは最後まで反対してたじゃない、事実だものと返される。……なんだか拍子抜け。

「1日毎に様子をレポートにまとめる、有事の際には即座に強制シャットダウンしてから間を置かず再起動、プログラム内外の連絡系統はひとつ増やしておくこと。連絡は夜の10時と朝の6時半でいいかしら? あと念のために拳銃一丁とお守りだけ持っていくわ、いいでしょう?」
「……拳銃だけじゃなくって? いや拳銃も危ないからやめてほしくはあるけどさ」
「ぐちぐち言ってるとあんたのその頭に一撃食らわせるわよ苗木」
「あああわかった! わかったから! 苗字さんがそれを言うなら後々なにかの役に立つんだろうし!」

 ……そんだけあたしの幸運が理解できてるなら、もっと他の誘導の手順を取ってほしかったんだけど。ま、ここで長々と話していてもしょうがない。さっさと着替えて準備してこなきゃ。

「それじゃあ、そっちもすぐ始められるように準備進めといてちょうだいね」
 スーツの内ポケットに入れた、未来機関のロゴ入りの"お守り"をぐっと握りしめた。


―――

夢主の「幸運」は、『選択肢を複数提示されたとき、自分の意思でその中のひとつを選ぶと必ず自身にとって"幸運な"ことが起こる。ただし、事前に相手に選択肢の数を半分以下に減らされていたり、他人に選択肢のどれかを選ばれると自身にとって"不運"なことが起こる』というもの。
Back
×
「#オリジナル」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -