匙加減次第、なんて言わないで
(夢主は75期生の『超高校級の幸運』)


 今日は天気がいいし外でお昼ごはんでも食べようかしら、と噴水前に足を向ける。昼休みの時間は予備学科とは違うし、変なのに絡まれることもないはず――まあそんなのあったところで先生にサボりをチクれば即退学でしょうし。って、そもそもあたしがそこで食べようと決めた時点でそんな面倒なことが起こるはずもないのだけれど――

「……いや、これは面倒でしかないわ。狛枝、あんたそれどうしたのよ」

 曲がり角の向こうから両手にいっぱいのペットボトルや缶類を抱えた狛枝が現れて、さっきの自信ははたと鳴り止んだ。いやまあ、変な予備学科生に絡まれるより数段マシか。

「さっきグラウンドの方から飛んできたサッカーボールに頭をぶつけて、その勢いで自販機にぶつかったら故障してしまったようで……。苗字先輩もおひとつどうぞ」

 ずい、と両手いっぱいに抱えた飲み物を示すように前進してきた狛枝の腕のなかから何本かペットボトルを抜く。近くにちょうど大きめの正方形のベンチを見つけて、そこに雑に積み重ねていく。缶も同じように積み上げていく。正面から見たらきれいなピラミッドがふたつ出来た。

「わざわざありがとうごさいます。せっかくなのでどれか飲んでいってください」
「それじゃあ遠慮なく頂こうかな。……全く、あんたも災難ね。そのサッカーボール、多分同級生だし後で謝るよう言っておくわ」

 缶の山から引き抜いたお気に入りのコーヒー缶のプルタブをかしゅっと開ける。黄色と黒の缶に入った甘ったるいコーヒーは少しぬるくなっていて。

「やっぱりこいつは冷たくなきゃだめねー」

 って、さすがに貰ったものに言う言葉じゃないよね。ごめん狛枝。隣に立っている彼の顔は怒ってるようには見えなかったから、なんか癪だし謝罪は飲み込む。

「それならもう一本いかがですか? というかむしろ持って行ってくれると助かります」
「ああうんそれもそうね……じゃあお茶頂くわ、これならぬるくても平気だから」

 積み上がったペットボトルの中から目当てのキャップを見つけて引き抜いた。崩れるかと心配したけどそんなことはなく、ああこれもあたしの幸運かあと思い至った。
 缶の中身をくいっと飲み干して、この昼休みの出来事を指折り数える。狛枝に会う、これは特に問題はない。彼が抱えていた飲み物を並べる、すこし暑くなってきたこの頃だし、まあ気持ちマイナスとしよう。お礼にコーヒーをもらう。もちろんプラス。それがぬるくてとても甘かった、コーヒーを貰ったプラス分の半分くらいマイナス。最後に、お茶をもらった、これはもう間違いなくプラス――

「よっし、今日も『幸運』!」
「いきなりどうかしましたか?」
「あぁいやなんでもないわ、こっちの話よ」

 今日は外に出てよかったわ、と口に出すと、狛枝もそうですね、苗字先輩と会えた、と応じる。

 ……前言撤回、狛枝に会ったのもプラスってことで。
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