(捏造に捏造を重ねた何か。2/27現在原作と全く違う感じになってますがそれ以前に書いていたものと言うことでなにとぞお目こぼしください。5歳児とはなんだったのか) 「レイ! 今日は何読んでるの?」 「昨日のやつの続き」 名前はいつもの木陰で本を読む俺に、鬼ごっこやろうと語りかけてきた。今日はそういう気分じゃないからパス。そう言うと、彼女はそっぽを向いて膨れた。 「レイってば最近いつもそうだよね。つまんないのー」 「そんな風に言わなくても明日は混じるって」 最後なんだからさ、と付け加えると目の前の名前は満足げに笑った。腰に手を当てて腰を曲げ、座った俺と目線を合わせる。 「最近ノーマンってばすごくてね、全然捕まえられないし鬼になったらみんなの事すぐ捕まえちゃうんだよ、足が速いわけでもないのに。エマとレイがいなきゃ絶対勝てないもん! 最後の一回くらい勝ちたいしさ!」 「はいはい、わかったって」 俺よりいくつも年上だとは思えないくらい子供っぽく最近の鬼ごっこでのノーマンの凄さをぺらぺらと喋りまくる名前に呆れながらも相槌を打つ。一昨日の鬼ごっこの話を始めたところで、エマが名前を呼びに来た。 「あ、いたいたー! はやく来ないと名前が鬼になっちゃうよ!」 「ごめーん、今行く! それじゃレイ、また後でね!」 エマに引っ張られて鬼ごっこ集団の方へ走る名前が、手を振る。 「……おう、また」 そうして手を振り返したら、なんだか急に寂しくなった。そうか、こうしてまたねと 名前に言えるのは、今日で最後なのか。明日彼女に言うまたねは、明日彼女がいうまたねは、きっと果たされることはない。振っていた右手をなんとなく握りしめて、しばらくそのまま本の続きを読めないでいた。 ふと目が覚めた。まだ外は暗くて、いつもより早く起きてしまったことに気がつく。寝息だけが響く部屋に、ひとつだけ違う息遣いが聞こえる。 「起きてんのか?」 隣のベッドに話しかけるともぞもぞと布団が動いた。どうやら名前が起きているという予想は当たっていたようで、しばらくすると丸まった布団から頭がひょっこり出てきた。ちらりと一瞬だけ、ライトか何かの光が目に入った。 「いやー、皆にお別れの手紙書いてたらこんな時間でね……眠いのに寝れないんだ」 あははと笑う名前にため息を一つ。全く、今日の夜にはここを出て明日新しい家族に会うんだろうに、そんな隈が付いた顔でいいのかよ。 「寝れねぇなら子守唄でも歌ってやろうか?」 「いやいいよ……レイそんなに歌うまくないでしょ」 「そんなこと言ったって昔お前が歌ってたのも大概だったけど」 「もー! うっさいなぁ!!」 枕が飛んできた。とはいえ取れないスピードでもなく、頭を狙ったのだろうけれど少し下方にずれていたこともあって、数秒後には俺の胸に収まった。 「あんま騒ぐと他の奴ら起きるぞ?」 「元はと言えばレイがひどいこと言うのが悪いんじゃん!!」 「はいはいわかったわかった。でもそんな顔で新しい家族に会うのは相手にも失礼だろ、早く寝ろって」 枕を名前に返してやりながら、そう言った。彼女は受け取ったそれをぐっと抱きしめながらそこに顔を埋めた。 「うーん……そうだね。レイに心配かけちゃってるし、他の子たちも心配するだろうし。じゃあおやすみなさい、レイ」 「あぁ、おやすみ」 布団をかぶり直して枕を抱えると1分もしないうちに眠りについたようで、規則正しい寝息が聞こえてきた。私物棚ごしにその頭をそっと撫でる。 「……昔さんざんやられたんだ、最後の日くらいやり返したっていいだろ」 誰に宛てたわけでもない言い訳が、ぽつりと漏れた。 結局一睡もできないまま朝6時を迎えた。隣のベッドでむにゃむにゃと寝言を言う名前の上にドンが乗っかって、彼女の体を揺すって起こそうと試みているようだ。伸びを1つして、それに加勢しようとベッドから体を起こし、ぱっと靴を履いて 名前の頬をつねった。 「おい6時だぞ、起きろ」 「んぅ……あ、れ……? もう朝なの……?」 「昨日寝れなかったからって遅くまで寝てていい訳ないからな」 「あはは、ごめんレイ。それとドンも起こしてくれてありがとね」 起き上がった名前に頭をわしゃわしゃと撫でられる。普段ならその手を払い除けているところだけども、昨夜のこともあってそうするのは躊躇われた。 「へへっ、やっぱり名前になでられるの好きだなー!」 「おー? そんなこと言われるとずーっと撫でてたくなっちゃうよーもう!」 名前がドンの頭を撫でる力を強める。それに伴って俺の頭の揺れも激しくなった。眠くて力の加減もできないのかよ、の意味を込めた溜め息を一つ吐く。 「……いつまて頭撫でてんだ、早く着替えろっての」 なんとか絞り出した言葉に彼女はあ、それもそうかと言ってドンと俺の頭から手を離した。不満げなドンの腕を引っ張って彼のベッドに誘導する。 「ドンも早く着替えろよ」 「それはレイもだろ! ったくよー、なでてもらうのひさしぶりだったのにさー!」 「あとでまたやってもらえばいいだろ」 とは言いつつも少し名残惜しくて、先ほどまで撫でられていた自分の頭に触れた。そのまま手を置いているのもなんだか名前に負けた気がして、乱された髪を梳く。いつも通りの髪型に戻ったと思えたところでパジャマの前ボタンを外しにかかった。 昼ご飯のあと、名前から一枚の手紙を受け取った。とは言ってもそんな特別なものでもなく、昨晩彼女が書いていたというお別れの手紙の一つでしかなく、内容だってありきたりな文言しか書かれていないし、後半にいくにつれてだんだん訳がわからない文章になっていく。あんな夜遅くまで書いてたから、眠くてうつらうつらしてたんだろう。ただあいつ、姉弟のようなものとは言え人に渡す手紙だってこと忘れてないか。 「レイのは何書いてあるの?」 一通り読み終えて元通り折りたたもうとしたところで、ノーマンが覗き込んできた。 「別に変なことは書いてねえよ。ただ単に皆と仲良くしてねだとかエマに変なこと教えるのやめろだとか、そんなもん。ノーマンは?」 「これから寒くなるから風邪引かないようにね、って。ほら」 ノーマンが受け取った手紙の内容はまさしく彼が言った内容がほとんどで、本当に当たり障りのないことを並べたような感じだった。ただひとつ、俺宛の手紙と違う点がある。 「へえ、この絵ノーマンそっくりだな」 「そうだね、僕もさっき驚いたよ。廊下に貼ってある絵と全然違うからさ」 「あぁ……あいつ、しばらく描いてないからな」 そう。下の余白部分にノーマンの似顔絵が描いてあるのだ。――更に言えば、ノーマンの手紙には似顔絵を描くスペースがあるのだ。 「かわいい……!」 「ギルダのは自信作なんだー! 喜んでもらえてよかった!」 周りのやつのはみんな絵が添えられているようだ。なんで俺のだけ描いてないんだ。じとりと睨むような目で文面を何往復もする。単純に俺の手紙は文字量が多くて入りきらなかったとでも言うのか。ノーマンの手紙は二枚目の三分の一くらいは絵のスペースとして使われていたし、ギルダの手紙は一枚に大きく描いてあるらしい。それならばこの場合、そんなスペースを用意できないくらい言葉を並べられたことを喜べばいいのか。いや、意味のない単語の羅列で喜べるほど俺は馬鹿じゃない。 くしゃりと音がして、はっと自分の手元を見た。持っていた封筒が折れ曲がっていた。 「で、似顔絵描いて欲しいんだねー、レイ」 「……うっせ」 正直に言ってみたところすぐこれだ。やっぱ言わなきゃよかったかもしれない。けど、わざわざ午前の自由時間を使って描いてくれるのは嬉しかった。 「本読んでてもいいんだよ?」 「さっきまで鬼ごっこに混ざるつもりだったから持ってきてねえんだよ、昨日言っただろ」 「取ってくれば?」 「今は本読む気分じゃないから、いい」 本を読むより名前と話したい気分――だけど、それを言ったらまた笑われるような気がしたから後半は黙っておくことにした。隠した文意を悟ってか否かはわからないけれど、彼女はにこにこと笑った。 俺がいつもの木に寄りかかると、名前は少し離れた場所に座り込んでスケッチブックを開いた。 「で、俺はどうしてりゃいい? 座ったほうがいいのか?」 「全身描くわけじゃないし好きにしてていいよ。ってか他の子のだって記憶頼りに描いただけだし」 細めた目が俺の顔とスケッチブックを行ったり来たりするのと同時にさらさらと鉛筆がスケッチブックの上で踊る。ふわりと吹く風に名前の髪がなびいた。 風に揺れる木々の音と鉛筆の走る音、遠くでエマたちがはしゃぐ声。明日になればひとつなくなるだなんてとてもじゃないけど信じられなくて、兄弟を送り出すのは何度も経験しているはずなのに、どうして今になって寂しく感じるのだろう。 「……そういえば、お前は外に行ったら何かしたいことあんの?」 「え、えーっと……なんだろ、何ができるのかな……」 「例えばエマみたいにキリンに乗りたいとか、荒唐無稽なのもないのか?」 「うぅーん……あ、星が見たい、かな。ハウスの窓からじゃあんまり見れないじゃん」 「お前ってそんなに星好きだったっけ」 「……そりゃ、図書室のの星に関する本読みつくすくらいにはね」 その言葉が嘘であることには、すぐに気がついた。今度読もうと目をつけている天体辞典はかなりホコリを被っていて、数年間誰も手を触れていないことが明らかにわかるくらいだったし。まあそこをつつきたい訳ではないし気づかないフリをしておこう。 「今日は満月だし、ハウスを出てくときに見えるといいなあ、お月さま」 「……そうだな」 鉛筆を動かすのを止め、彼女は空を仰いだ。つられて俺も空を見上げる。雲ひとつない快晴だった。 「これなら夜も晴れてるんじゃねえの」 「そう、だね。うん」 そう言って名前は静かに微笑んで、鉛筆のキャップをはめた。そのままスケッチブックで胸のあたりをつついてきて、もうちょっとマシな渡し方ねえのかと呟きながら受け取った。自分の似顔絵に目を落とす。鏡やコップに入れた水でよく見る自分の顔によく似ていて、それをスケッチブックいっぱいに描いてくれたということが、とてもとても嬉しかった。 しばらく見入っていると、いつの間にか彼女が近くに寄ってきていたようで―― 「ねえ、レイ――」 囁かれた言葉に目を丸くした。 (続きます)
|