Sweeties.
 うららかな日差し――とは、対照的に。
 今日は朝から最悪な気分だ。冨岡先生には叱られるし竹刀で叩かれるし、伊黒先生にはネチネチ怒られるし。
「はぁ……朝から最悪だよぉ」
 荷物を地面に置いて椅子にへたり込む。机に頬をつけて、金属製の机の脚に足を絡ませて叩かれた場所を冷やす。独り言に反応してか、前の机の蜜璃ちゃんが私の横顔を覗き込んできた。
「どうしたの、名前ちゃん?」
「聞いてよ蜜璃ちゃん、スカートが短い! って朝から冨岡先生にべしーってさあ!! やられたの!! 私の足!!」
「冨岡先生、厳しいものね。私は名前ちゃんにはそのくらいの長さが似合うと思うけど」
「でしょー? ほんとあり得ない、いっそ蜜璃ちゃんとお揃いの色に髪染めちゃおっかなあ」
「えっ、私とお揃いっ!?」
 ほんのり日光に焼けて毛先が茶色になった髪の毛を太陽に透かす。これが目の前の彼女みたいなビビッドな桜餅色になったら、あの先生たちはなにを言うんだろう。
「突然変えちゃったらさ、もう冨岡先生もスカートの長さを怒ったりしないんじゃないかなーって」
 中学3年生の2月、ハワイに旅行に行った同級生なんて目じゃないくらい、夏前に会ったときとは様変わりしてた蜜璃ちゃんの髪の色、冨岡先生が注意するところ今まで見た記憶ないもん。私をネチネチ怒る伊黒先生も、蜜璃ちゃんには何も言わない。というか、完全にあれは蜜璃ちゃんのこと好きでしょとは、学園中の人間の知るところであると思う。蜜璃ちゃん以外は。
「うーん……あのね、きっと私とお揃いの髪の色にした名前ちゃんもとっても素敵で可愛いと思うんだけど、私は今のままの名前ちゃんの髪、すっごく好きなのよ」
「……は、はへぇ?」
「そう! あのね、黒蜜みたいで素敵! って思うの!!」
「く、黒蜜……?」
 色がってことかな。蜜璃ちゃん、時々、いや結構ついていけないことを言い出すから、理解するまでワンテンポかかってしまう。まあ、応答がツーテンポ遅れても気にしないでくれるから話しやすいんだけど。
 私の髪をひと房掬い上げた蜜璃ちゃんに毛先をくるくると弄ばれる。……最近切ってないから枝毛ありそうな気がする。
「色もそうなんだけど、シャンプーかな? 優しくて懐かしい匂いだなーって、よく思うの」
「へー……」
 口許に運ぶ動作が、さっき彼女が言っていたことと重なって髪の毛を食べられちゃうんじゃないか、なんて。
 私にはわからないシャンプーの香りを感じているのかな。ちゅ、と音がしてしばらくして、取られていたひと房を耳に掛け直された。
「黒蜜の話してたら、なんだか餡蜜食べたくなってきちゃった! 名前ちゃん、今日の帰り一緒に定食屋アオイに食べに行こ!」
「……そうだね、あそこのおいしいもん」
「うんうん。今日は何にしよっかな〜……」
 スマホに保存してあるメニューとにらめっこを始めた蜜璃ちゃんをを見てたら、もうすっかり足なんて冷えちゃった。
 朝のホームルームもまだ始まっていないのに、もう既に放課後のことで頭がいっぱいだ。
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