4:Be in the hospital


 右足の骨折はなかなか重症らしく、大会中に復帰するのは難しいでしょうと医師に言われた。とんとん拍子にメンバーの入れ替わりの手続きが進み、あとの3試合を任せるポールも明日にはチームに合流すると聞いた。試合日程にも影響があるようで、急にできた休養日にはみんなでお見舞いに行く予定だ、とフィリップからメールが来ていた。
 検査の合間に、テレビで流れるグループBのサッカーの試合を眺める。何度も抜いたディフェンスも、カメラ越しに見ると結構強そうに見えた。



 看護師から差し入れられた少年サッカー雑誌をめくった。FFIのリーグ戦の特集らしい。めくったそのページで、目次に大きく書かれた文字を見て手を止めた。

「……なにが『女王様』よ、誰が!」

 目次の見出しからなにから、いっそあの看護師が私たちのファンでないからこれを寄越したんじゃないかと思いたくなる言葉の羅列。他の記事を読もうとも思わない。
 こんなもの、と遠くのゴミ箱に向かって本を投げつけた。冷静さを欠いた暴投となって、雑誌は壁に当たってゴミ箱とは程遠い位置に落ちた。

「シオン、入っていいか?」

 フィリップの声。入院中の今に限って無言は肯定だ。ドアの開く音が続く。出しっぱなしの椅子に荷物を置いて、彼はもう1脚の椅子に座った。

「シオン、雑誌が落ちて――」
「捨てようとしたの、それ」
「……ああ、これか」

 既に中身を知っているような口振りで、フィリップが雑誌を拾い上げた。開かれたページにはイナズマジャパン戦で負傷した私を運ぶ2人の写真が載っている――さっきの悪趣味なタイトルをした記事のページだった。目を逸らした先、窓の向こうで1羽の鳥が羽ばたいた。

「俺たちが多くのファンの……いや、国民の期待を裏切ったことは事実だ」
「……それでも、私は、」
「ああそうだ、お前はクィーンではないし、お前の実力はチーム皆が認めるものだ。サッカー協会の対外的なアピールのために代表に選ばれたわけではない」
「そんな下らないことのためになんか選ばれちゃいないわ、誰1人として」
「こういう記者は得てしてなんにでも裏事情を見出したがる。その対象が強豪と呼ばれるチームであれば尚のことな」

 ぱたん、と雑誌を閉じる音がした。フィリップの表情を見て少し頭が冷えて、確かにああ書かれるのも当然だろう、と息を吐いた。その矛先が別のチームに向くのを何度も見てきた。それが私たちに向けられる番だった、そのときに目をつけられたのが私だった、それだけだ。

「足の経過はいいんだろう?」
「ええ、もうすぐサッカーできるだろうって。夏には間に合わせるわ」
「今年の夏はジャパンが来るんじゃないか? それかコトアールか、どちらか」

 ジャパンか、コトアールか。どちらも相手にとって不足はない。ゲストである彼らを迎え撃つ――そんなビジョンはまだ見えないけど。

「……ええ、いずれにせよ、そこまでには今まで通り――ううん、今まで以上の私になってイギリスに帰る」
「サッカー留学じゃないんだから、あんまりお祖父様を困らせないようにな」

 わかってるって、と適当に返事をした。
 私がこれからサッカーをどうするのか――その答えも、夏までに出さないといけない。留学の話を受けたのは失敗だったかもと思いつつも、いっそそこでなにか別のものに出会えたらという期待も少しだけあって。
 ……ああ、でも留学先の学校はサッカーが強いとこなんだっけ。サッカー留学、になってしまうんだろうなあ。


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