3:Knights of Queen vs INAZUMA Japan


 ジャパンボールで始まった試合も、相手のパスのわかりやすさに助けられて前線にボールを運べた。フィリップのシュートにランスのストーンプリズン、エドガーのエクスカリバー。なかなかシュートが決まらないものの盤面はこちらが支配していると言っていいはず。
 円堂か戻したボールが上がってくる。監督の号令に、キャプテンが右手を挙げる。アレの合図だ。
 豪炎寺と宇都宮が横を走り抜けていくタイミングでその手が振り下ろされた。ボールを前線に持ち込む風丸が、第一陣のフィリップを必殺技で吹き飛ばす。初めて見る技、だけど再び姿を現すタイミングも位置も予測の範囲内。エリックが風丸の進行方向を右に取らせる位置取りをして、その通り彼は私の方向にやってくる。そのボールを奪うなら――今! 3人目は予想だにしていなかっただろう風丸の足が止まった。彼はきっとしっかり考えてから動くタイプで、想定外の事象に弱いプレイヤーなんだろう。

「なっ!?」

 前、できればエドガー達のいる方向に、とそのボールを弾いた。拾ったのはジャパンの選手だけど、ゲイリーがそのボールを奪う。監督の指示を受けて、ゲイリーからのパスを受け取りドリブルでディフェンスを躱す。エドガーのマークはきつくない。ここは私が行くよりも、パスを通すべき。7番を躱して、5番に捕まる前にエドガーにパスを出す。ゴールに背を向けてそのパスを受けたエドガーは、綱海のスライディングを物ともせず回転する勢いでシュートを放った。それは円堂に止められたわけだけど――もしかして、エドガーは相手の実力を測っている?
 左胸をとん、と叩いた。背負うものと背負わされたもの。他のチームメイトよりひとつ多い、私にかけられた期待。――応えなくちゃ、いけない。ひりつく胸は1回叩いた程度じゃ収まらなかった。


―――


 ……まさか、そう来られるとは思ってなかった。
 3人で列を為してアブソリュートナイツを潜り抜けて、相手のエースストライカーへとパスが渡る。ストーンプリズンも飛び越えられて、10番の必殺技――その寸前にボールを奪ったエドガーが、その場から必殺技を繰り出す。

「エクスカリバー!」

 この距離からのエクスカリバーなら、同点のピンチが一瞬で突き放すチャンスにひっくり返る。けど、この序盤で何度も繰り出して相手が見慣れたらちょっとマズいかもしれない。なら、ここは変化球で!

「フィリップ!」
「ああ!」

 右足で地面を蹴って空へ跳ぶ。最大限のパワーの軌道を、フィリップが勢いをそのままに上に逸らした。練習と同じ高さ――私の飛ぶ高さに。タイミングも場所も、寸分の狂いもなく収まった。右足に力を込めて、オーバーヘッドで必殺技を重ねる。

「フラップビート!」
「――ザ・マウンテン!!」

 山。
 が、突如目の前に現れた。シュートの威力を弱めるため、なのは理解できる。既に2度エクスカリバーを味わったんだから、きっとそのタイミングに合わせて発動したんだろう。私たちの企みに気付かずに。ああ、でも、この状況から逃げ出す術なんてとてもじゃないけど思い付かない。
 ――これこそ正に、絶体絶命。
 ボールを蹴った勢いのままに右の脛が山に激突して、そこを支点に身体が逆方向に回転する。この勢いのまま背中を打ったらただの怪我で済むはずもないけど、タイミングを誤れば今度は頭から真っ逆さまに地面に落ちることになる。
 左足で岩肌を蹴った。必殺技は砕け視界が広がる。客席や景色の見え方から高さを測って、左足から着地――して、勢いを殺しきれずに尻餅をついた。同時に2点目の笛が鳴りスタジアム中が歓声をあげる。その音にほっと胸を撫で下ろした。

「シオン、ナイスシュート」
「フィリップもナイスパス。……い、ッ!?」

 フィリップとハイタッチを交わして腰を上げると、いつも通り体重をかけた右足が痛む。

「さっきの相手の必殺技で痛めたのか」
「これくらい大丈夫よ、私はまだまだ――痛っ」

 大丈夫だ、と歩こうとしたとき、痛みが背中を一瞬で通り抜けていった。右足の力が抜けて、今度は正面に体が傾く。フィリップに肩を掴まれて支えられなきゃ、そのまま地面に倒れこんでいた。平気……じゃ、ない。

「その様子が"大丈夫"だとは思えないんだけどな」
「……このくらい、休めば後半には戻ってこれる」
「そういうバレバレの嘘をつくな。……エリック! シオンを外に運ぶぞ」
「オーケー、ベンチに連れていけばいいよな。ほらシオン、肩に掴まって」

 屈んだ二人の首に腕を回すと、フィリップとエリックが目線を交わして同時に膝を持ち上げる。目線がいつもより高くなって、うつ伏せで倒れたままのジャパンの選手――壁山、だったっけ――が目に入った。

『アクシデントです! 先程のプレイでナイツオブクィーンのシオンとイナズマジャパンの壁山が負傷!』

 実況の声と客席のどよめきが聞こえる。そして初戦で怪我する私か、もしくはケガを負わせた壁山のどちらか、もしくは両方に向けられたブーイングが始まり――エドガーがそれを収めた。

「シオン、後は任せてくれ。勝つのは私達ナイツオブクィーンだ」
「……うん、わかった」

 すれ違いざまに彼の青い目と視線を交わす。ああそうだ、戦術の切り替えが早まっただけだ。私一人が欠けて負けるチームでもない。だから何も問題ない――と、ひたすらに胸の内で繰り返す。
 二人の足が白線を踏み越えた。


―――


「マイキー、予定より少し早いが出番だ。残りのメンバーは折を見て交代する。しばらくはアブソリュートナイツを中心にゲームをするようエドガーに伝えるように」
「はい」

 視界の端で選手の交代を知らせる文字が光る。15番の彼は白線に入る前にこちらの様子を窺った。予定より早い自分の出番とチームメイトの怪我、ふたつに戸惑っているようにも見えた。

「シオン、その怪我では付き添いが必要だろう。ギャレス」
「1人で行けます、……っ」

 左足1本で立ち上がって、体重の掛け方に気を付ければ大丈夫だろうと一歩を踏み出したところでさっきより鋭い痛みが訪れた。右足から全身へ、痺れが伝染するように。
 ああそうだ、今のだってさっきのフィリップへの言葉だって、全部強がりだ。わかっていても口にしなくてはいけないときがある。私はここで降りるわけにはいかなくて、大丈夫だという言葉を現実にしなくてはいけなくて、それで――。口には出せないことを思いながらベンチに座ると、監督がはあ、と息を吐いた。

「怪我の程度がわかっただろう?」
「大丈夫、です、こんなの1日で」
「お前の決めた点は無駄にしない。……すぐに医務室に」
「はい。シオン、行きましょう」
「……はい」

 肩を借りるだけでは歩けなくて、かと言ってギャレス以外のメンバーの手は煩わせたくなくて、彼に背負われることにした。なんの問題もなく両の足で立って歩ける彼が羨ましかった。


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