2:Goodwill party-2


 ”余興”が終わってパーティーが再開されると、少しずつチーム間の交流も見られるようになってきた。大体サッカーについて――彼らがアジア予選で戦った三チームの話を主にしているみたいだ。確かに彼らが直近で戦った相手だし、私たちが戦ったことのないチームだから、そういう話に惹かれる気持ちもある、けど……。

「……あっ」

 ジャパンのキャプテン――円堂のオレンジのバンダナが見えた。料理の温冷を気にせず1つの皿に山のように盛っていく姿を見ながら、アイスコーヒーをもらって話しかけるタイミングを見計らう。ローストビーフのトングを置いた彼が「よしっ」と言うのを聞いて、他のジャパンのメンバーたちと合流する前に、と早足で彼の正面へと向かう。

「はじめまして、ミスター円堂。パーティーは楽しんで貰えてるかしら」
「ん? ああ、さっきのエドガーの必殺技見たか!? 超すっげーな!」
「ええ、本当に凄いわよね、エクスカリバー。……ああ、別に食べながらで構わないのよ」
「そ、そっか。こういうパーティー初めてでさ。お、これすっげーうまい!」

 あんな乗せ方をしたら味が混ざっておいしいどころの話じゃないと思うんだけど、……グラスを裸のまま持つ人の方が多かったり、一度にたくさんの料理を取ったりする人が複数人いたり、もしかしなくてもジャパンはパーティーに不慣れな人が多いみたいだ。

「楽しんでもらえてるようでよかった。時間になっても姿が見えなかったから、もしかしてこういうパーティーがお嫌いなのかと心配してたの」
「あ、いや、嫌いとかじゃなくって――」
「……私たち皆、ジャパンのキャプテンが時計も読めない人だなんて思ってもなかったのよ」
「ちょっと! 今のはうちのキャプテンへの侮辱じゃないですか!? さすがに時計くらい誰だって読めますよ!」

 今のは……ジャパンの戦術アドバイザーの目金欠流。眼鏡を掛けた背の低い、先ほど真っ先にエドガーに突っかかっていた男性。そんなに近くにいたわけでもないのに、耳聡いな。それに無粋だ。ふふ、と笑いながら彼の方へ身体を向けて、お返しの言葉を口にする。

「あら、時計が読めて約束の時間も分かっていて、それでいて約束の時間に遅刻するだなんて、あなた方のキャプテンってそんな人なのね。覚えておくわ、ミスター目金。教えてくれてありがとう」

 空いている右手を彼に緩く振ってやると、眼鏡の彼は言葉に詰まった様子を見せた。あなたは”そういう人”なのかしら、と円堂の方を向く。

「だからそれは悪かったって! フィディオたちとサッカーしてたらさ、エドガーもすごいけどあいつらもすっげープレイするんだよ! テレスのフェイントもフィディオのドリブルも……」
「待って、フィディオにテレスにディランにマーク? その4人とサッカーしてたの?」
「そうなんだよ! それで気が付いたら約束の時間過ぎてて……あ、そうだ。俺は円堂守。名前、教えてくれよ!」
「……シオン・グリート、イギリス代表ナイツオブクィーンのMFよ」
「おう、よろしくな! ……って、せ、選手ーっ!?」

 差し出した手を握る直前、円堂が叫びながら手を振り上げた。周りのジャパンのメンバーも同様に驚きの声をあげる。私のことをマネージャーだと思ってたの? 開会式に欠席したわけでもないのに? ……ああ、でもアジアの予選が終わってすぐに本戦が始まったんだから、もしかして他のチームのことを調べる暇もなかったのかもしれないな。視線を円堂に戻して、周りの声に思わず吸い込んでしまった息を吐きだした。


「そう。大会唯一の女子選手なの」
「女子が出れるなら塔子とリカだって出れたんじゃないのか?」
「そのトーコとリカの実力は知らないけど、私は欧州の同年代のプレイヤーの中で十指に入ると言われてるの。そんな選手のいない世界大会、楽しいと思う?」
「じゅっ……!? シオンってすげーんだな!」
「まあそういうわけで、試合ではよろしくね。ミスター円堂」

 今度こそちゃんと握手をして、残り短い時間だけど今日は楽しんでいってね、と円堂と別れた。チームメイトと談笑し始めた彼を見て、私も誰か別の人と話そう、と歩き出した。



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