6:Spring breeze carried a surprise


 新年度早々、転校生が来るという噂で廊下が騒がしい。留学生だとか女子だとか、サッカーが上手いらしいとか、そんな声を聞きながら自分の座席を探す。座席表で教壇の真ん前の列の一番後ろに名前を見つけた。ひとつ隣の机が不自然に空いていて、その席の隣が雷門。もしかしてここがその転校生の席なのかな。名前くらい予め書いててくれたっていいじゃないか。
 同じクラスにはシャドウと弟の方の目金、それから久遠がいるっぽい。他に誰かいるかな、と座席表をもう一度確認しようとしたとき、チャイムが鳴った。担任は時間に厳しいと有名な人で、本令の前には着席していないと怒られるらしい。おとなしく座っとこ。
 雷門はまだ来てない。教室で漫画を読む気にはならなくて、遮る人がいない窓の外を眺めた。本令がなってクラス中が静まると、入り口から先生と雷門が並んで入ってきた。先生の自己紹介と、今年一年よろしくという簡単な挨拶に返事をした。みんな思うことはひとつのようで、入り口のドアに注目している。あのドアの向こうにいるのが噂の転校生!

「それと、皆もう気付いてると思うが、このクラスに留学生が来る。……お嬢様、お願いします」

 雷門がドアを開けた。そこにいたのは、留学生で、女子で、サッカーが上手い――全部が噂通りの人。嘘だろ、と日差しも風もない麗かな春の教室に似つかわしくない汗が頬を伝うような、そんな感触。

「えー、今年度の1年間、イギリスの姉妹校から長期留学ということでやってきたシオン・グリートさんだ」
「ご紹介に預かりました、イギリスから来たシオン・グリートです。1年間よろしくお願いします!」
「シオンさんの席はお嬢様の隣だ。まだ日本に来て日が浅いらしいので、周りの人だけではなくクラスの皆で彼女の学園生活をサポートするように。……シオンさん、席について」
「はいっ」

 机の間を、雷門の後ろについて歩く。テレビで見たあのシオン・グリートが、こんなとこにいていいのか!? 彼女が椅子を引いて触ったのを確認して、担任がまた口を開く。この後の始業式まではまだ時間があるけどトイレ以外の用で外には出るな、と言って先生は出て行った。
 ドアが閉まって、8割がたのクラスメイトの目はこっちを――というより、シオンの方を向く。数秒後には囲まれて質問攻めにされるんだろう。

「あの、俺、半田!」
「あ、隣の。よろしくね」
「――なあ、サインくれないか!?」

 風丸から貰って、お守りみたいにずっと鞄の小さいポケットにいれていた1枚のブロマイドとサインペンを差し出した。ナイツオブクィーンのロゴが右下に入った、彼女の写真。

「……わあ、ライオコットに来てたの?」
「いや、これは風丸に買ってきてもらったやつ」
「なるほどね。ねえ、名前はなんっていうの? ファーストネームの方!」
「真一。半田真一って言うんだ。よろしくな」
「へえ、シンイチね」

 サインペンのキャップを取って、ビニールから出したブロマイドの表面で走らせる。カタカナで書かれた宛名は、大胆なデザインのサインとは対照的にピシッとしている。

「シンイチはサッカー好きなの?」
「サッカー部なんだ。FFIでシオンのプレー見て、凄いなって思ってさ!」
「ありがとう。……よし、完成!」

 乾かすために2、3度振ってから袋に戻す――そんな動作も手馴れた様子だ。受け取ったブロマイドの袋の粘着部分が斜めってるけど、どんなに封入率が低いサイン入りのブロマイドよりよっぽどレアだ。お礼を言おうと口を開いた時、シオンの席のひとつ向こう、雷門が顔をあげた。

「――あら、もう仲良くなってるのね。半田くんに頼みがあるのだけれど、いいかしら?」


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