疲れているのなら寝なさいと言われたものの、ついさっきまで眠っていたからか眠気はなく、兄弟子が休憩に入るまでの間、ゆきさんとお話することにした。

「善逸くんはさ、どうしてここに弟子入りしたの? やっぱり鬼絡み?」
 足を崩してお茶をすするゆきさんは本当に端正な顔立ちをしているな、と思った。これでここがじいちゃんの家じゃなくて、ゆきさんが姉弟子じゃなかったら思いっきり求婚していたような気がする。……と、そうじゃなくて。

「俺は……ある事情で借金抱えてたところをじいちゃんに助けてもらって、その代わりに剣士として修行することになったんです」
「なるほどね、そういうことなんだ。じゃあ師範に素質を見込まれたってことなのかな」

 彼女は湯呑みを置いて饅頭を食べ始めた。所作がひとつひとつ綺麗で、もしかしたらかなりいい家柄の人なのかもしれない。

「あ、お水持って来ようか?」
「お願いします……」
「ちょっと待っててね」

 さっと立ち上がって、先程までお茶が入っていた湯呑みを持って台所へ行くゆきさんは、正しく"立てば芍薬座れば牡丹、歩く姿は百合の花"ということわざのようで。
 見惚れると共に、包み込むような彼女の優しさにこの人は俺の姉弟子なのだと再認識した。今までの自分ならすぐ言い寄っていたような気もするけれど、姉弟弟子という関係性を超えなきゃ、彼女に求婚なんて出来やしない。――それに、ついこの前の結婚詐欺でしばらくはやめておくか、なんてらしくもない反省をしているところでもあるし。
 言うとしたら、ゆきさんより強くなって、彼女を守れるようになったときだ。

「はいこれ、お水。あんまり急に呷ったりしたら駄目だよ」

 ゆるく微笑みながら湯呑みを差し出され、それを受け取る。ゆきさんの言葉に沿って一口ゆっくりと飲み込むと、じわりと身体が喜んでいるように思えた。


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