――鳥居さんの家が皆誰かに殺されたんですって。麻木さんの旦那さんが今朝伺ったら一人娘のゆきさん以外の全員の死体があって、それでも娘さんの部屋はひとつも汚れてなかったらしいのよ。
――えぇ、それじゃああの子が家族をみんな殺したって言うのかい。
――わからないけどそうじゃないかしら。女学校でも優秀だったって聞くのに、人って外見じゃわからないものね。
――怖いねぇ、昔はあんなに優しかったっていうのに。
――お前がお前の親父を殺したせいで俺は大学を中退する羽目になったんだ!
――金と地位以外にお前との結婚に惹かれる要素はなんもなかったってのによ。
――助けてくれると思った? 俺にお前を匿え、面倒見ろと? ふざけんな、被害者は俺だ!
――この人殺しめ!!
「――柱合会議! 柱合会議ィ! ゆき、速ヤカニ本部ヘ向カウベシ!!」
「は、はい只今!」
いつもの癖で朝食後に睡眠を取ってしまった。鎹烏に起こされて、外していた隊服の釦を絞め羽織をはおる。懐かしくて苦しい夢を見ていた気がするけど、冷たい水で顔を洗ったら夢の印象だけ心の内に残った。
担当の地域が本部から離れた場所に割り当てられているから、どうしても昨日は見回りを下の階級の隊員に割り振ってしまった。街の人には事情を軽く説明してはいるけど、わたしを受け入れてくれるのにも時間のかかった街だから心配。
宿の玄関口まで見送りに来たご主人に頭を下げる。
「突然すみません、ありがとうございました!」
「こちらこそ、柱の方のお役に立てて幸いでございます。ご武運を」
飛び立つ鎹烏の後を追い、街を駆ける。ここは鬼殺隊に理解のある街だ。住むにはいい街だな、と思いつつも、鬼が出てくれないことにはわたしたちを分かってくれないだろう、とも思った。
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