Treat or Lucky

 なんとなく――本当になんとなく、まっすぐ寮に帰らずにぼんやりしながらコーヒーを飲んでいた。クラスメイトに貰ったチョコレートに、言われて用意して少し余った飴。最後に残ったチョコレートは、なんとなく、部屋で食べるより外で食べた方がいい気がした。それだけだ。
 飴もチョコレートも市販の個包装のもので、料理の才能がある人は75期にはいないからそうなるのも必然だと思う。むしろ個包装ですらないチョコ菓子やらビスケットが大半を占めていたし。
 飲みきった缶を置いて周りを見ると、たまにと言うには見かける頻度のやや多い後輩のふわふわとした頭が見えた。両手に膨らんだビニール袋をぶら下げて、入りきらなかったのか途中で袋が破れたのか、いくつかの大袋の菓子を手に持っている。少し離れているのにレジ袋の悲鳴が聞こえてきて、ゴミ箱に空き缶を捨ててから狛枝のもとへ向かった。

「狛枝、右手の袋破けかけてるわよ」
「うわっ、と……ありがとうございます、みょうじ先輩」
「もうちょっと袋は分けて入れてもらわないと、さすがにその量はあたしが持っても30分持たないわよ。一回下ろして中身並べかえなさい、ほらあっち」

 手に持っていた大袋を取り上げて、近くのベンチに置いた。破れかけていたレジ袋の中には硬い箱の菓子が詰まっていて、中身を組み替えて傷の部分に箱の角が当たらないように調整する。少しできた余裕の部分に入りきらなかった大袋を入れられた。

「助かりました。くじびきの景品でいっぱい貰ったのでみょうじ先輩にあげますよ」
「……はあ。じゃあ、トリックオアトリート」
「はい、どうぞ」
「……ありがと、あとで開けるわ」

 景品で当たったらしい、中身の見えない詰め合わせセットを受け取った。こういうのはクラス会で開けた方が楽しいとは思うけど、狛枝の選んだものだし、選ばせたのはあたしなんだからきっとあたしの好きなものが入ってるはず。
 それじゃあ、と狛枝が袋を持ち上げる。ポケットの中に残っていた飴を手に握った。

「なんか言うことない?」
「え? いや、別にボクはそんなこと気にしないっていうか、そういうお気遣いは――」
「さっきあたしも言ったんだから言いなさい」
「……トリックオアトリート」
「はい、口開けなさい」

 袋の封を切って、狛枝の口の中に飴玉を転がす。歯の間を転がる音を聞いて、手を引っ込めた。

「じゃあ、気をつけて。階段とか」
「はい。じゃあ、また」

 飴の包装に書かれたなんの謂れもないおみくじによると、今日は大吉らしい。
 ――どっちのことやら。


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