ほのぼのPNL

 風と日差しの強い、とある日のこと。
 鬼ごっこで盛り上がる少女たちの声が木の下で本を読むレイの元まで聞こえている。

「なまえ、捕まえたーっ!」
「ぐぬぬ、せめて最後のひとりまで残りたかったのにー!」
「あはは、ごめんね。ノーマンは手強いからさ、先になまえを捕まえちゃいたいんだよね。じゃ、レイのとこで待ってて!」

 エマが伸ばした手になまえのシャツが触れたらしく、なまえはまた今日もノーマンより先に捕まったことに落ち込んでいる。なまえの頭を優しく叩いてエマは森の奥へと駆け出していった。
 その姿が木に隠れて見えなってから、なまえはとぼとぼと広場に戻って木陰に入る。既に捕まった他の子供たちも同じように木陰に入っていた。

「またノーマンにもエマにも負けたんだな」
「遊んでないレイに言われたくないんだけど!」

 レイが読んでいた本を取り上げて、中身に目を通してすぐ返した。なまえには内容が理解できないし、する必要もなさそうな見たことのない機械の図が描かれていたから。返ってきた本にしおりを挟んで閉じると、ため息を吐きつつレイはなまえに向き直った。

「エマにも言えるけど、なまえは鬼ごっこのときもっと頭使えって。単純な足の速さならエマより速いだろ?」
「そうだけど、森だと地面がこの辺と違うんだもん」
「そしたら奥に隠れずに平地で逃げ回ればいいだろ。障害物の回りを走って逃げれば追い付かれないし」
「そっか……! そしたらノーマンにも勝てるかな?」
「ノーマンは森の奥に追い詰めてくるから無理じゃね?」
「ううーん……難しいなあ。また別の方法考えよっ」

 地面に寝転ぶと、葉っぱの隙間から青い空が見えた。雲ひとつない爽やかな晴天。木の葉が風で揺れると、見える空の形が変わっていく。もっと走り回ってたかったなあ、かけっこなら誰よりも速いのに……なんて思いながらなまえは目を閉じた。


 次に目を開けた時にはなまえの視界にノーマンがいた。

「あ、起きた」
「え、あたし寝てた?」
「うん、結構ぐっすりお昼寝してたよ。ここで寝転がるの気持ちいいよね」

 ノーマンがくすくすと笑う。どうやら彼も本当に寝転んでいたみたいで、背中に軽く土が付いていた。

「鬼ごっこ、最後どうなったの?」
「僕の負けだったよ」
「ほんとに?」
「そうそう、エマが木の根っこに躓いて転んだから助けたら捕まっちゃった」

 それはノーマンの負けとはちょっと違う気がする。ははあ、と視界の端にいたエマをちらりと見ると、エマはエマで悔しがっている。

「あたし、明日は逃げ切るもん」
「明日はなまえが鬼やるって言ってなかった?」
「え、あ、……そうでした」

 ここのところ鬼役をしてばかりのエマにそう言ったんだった。ノーマンはにこにこ笑顔を崩さないまま。

「じゃ、頑張って僕のこと捕まえてね」

 ノーマンの鬼! 悪魔! ……なんて言いそうになった口をすんでのところで抑えた。

「あ、頭使ってなんとかするからっ」

 レイに言われたことをなまえが口に出すと、ノーマンは何かを察したように口角を上げた。
 空の色は、さっきより少しオレンジがかっていた。


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