第五話

 一葉ちゃんのSNSに、デスアイランド組と映った写真が載らなくなった。撮影に行っていた人たちと事務所で顔を合わせるようになった。クライマックスに向けて盛り上がりを見せるウルトラ仮面に関する雑誌のインタビューを、肝心の主役抜きで受けた。次にアキラくんと共演するのが来週の頭なはずなのに、時間が過ぎるのがゆっくりに感じる。待つ側の人間になるとどうにも体内時計が狂う。
 トレーニングルームから出てスマホを確認すると、また竜吾さんからメッセージが来ていた。クランクアップのあとの打ち上げで撮った写真らしい。手持ち花火、確か五月くらいに撮影でやったな。大人数でやれたら楽しいんだろう。
『花火、楽しそうですね』
『打ち上げ花火一気に点火したりしたバカがいなけりゃもっと楽しかった』
『なんだかんだ楽しんでるじゃないですか』
 ただまあ、一気に点火するのは些か情緒に欠けるというのは同意だ。誰なんだろう、映ってる面子のなかでやりそうなのは烏山くんだけど。
『予定通り明日東京に着くらしい』
『お土産待ってますね』
『アキラにでも言ってろ、むしろ今伝えてやるよ』
『冗談です』
 というか、こんなことを言っていても竜吾さんがお土産を買ってきてくれることとアキラくんには伝えないことはわかる。お互い付き合いが長いから軽口の見極めができるだけなんだけど。
 メッセージは返したのに珍しく返信が遅い。返しづらいメッセージだったかな、と思っていたらいきなり着信画面になった。竜吾さんから。
「……はい、三角です」
『よう。食いもんでいいよな』
「ああ、はい。ありがとうございます」
 お互い消えものを頼むのが二人の暗黙の了解だ。わざわざ電話を掛けるまでもないのに、なにをいきなり。
『――竜吾さん、誰と電話してるんですか?』
『三角』
 後ろから聞こえてきた声は和歌月さんっぽい。遠くから波の音がするから、花火したあと海で遊んでたとか?
「竜吾さんも和歌月さんもずいぶん長いことそっちにいたんですね。主役級なんですか?」
『いや、せっかくの南国だし暇だったから。貝でも拾って送ってやろうか』
「いらないですよ……」
 そういう拾い物はどうにももて甘しがちだ。よくあるフォトフレームのデコレーションはしないし、アクセサリーを作るには大きい。多分頼めばいい感じの貝殻を見繕ってはくれるだろうけど、自作の貝殻アクセサリーは来年の夏まで使う機会がなさそうだし。
『何の話してるんですか?』
『ん? 三角の恋バナ』
「一秒たりともしてないです」
『……竜吾さんだけはやめといたほうがいいですよ』
「いやいやないない」
『三角と付き合っても五秒で別れるだろ』
 お互い、それぞれの恋人に向いてないのはわかっている。恋愛感情抜きに適当に話しているくらいがちょうどいいってことは、数年前に身内のスキャンダルの記事を眺めながら二人で出した見解だ。それにしても五秒は言い過ぎでは?
『ま、土産の確認ができたから電話切るな。花火全部他のやつに取られる』
「はーい、ありがとうございます。楽しんできてください」
 スマホを食卓に置いた。通話を終えた画面はトーク画面に戻っていた。


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