第二話

「……あれ、そんな大荷物でどこか長期ロケ?」
 別所での撮影終わりにピックアップされたアキラくんは、後方トランクにも詰め込めきれないほどなのだろうか大きな荷物を抱えていた。
「デスアイランドの撮影だよ、千世子君が主演の映画さ。何人かスターズのメンバーも出演するんだ」
「え、話には聞いてたけどいつの間に決まったのそれ……」
「撮影期間は確か詩織君が舞台に出る期間中だったと思ったが、それで声をかけられなかったのではないか?」
 ……なるほど。確かに夏の舞台は前から決まっていたからそこに被ってるはどうしようもない。
「その撮影はどこでやるの?」
「南の方の離島って聞いたな。僕も出番が多い役だから結構長いことあっちにいるみたいだ」
「そっか、頑張ってね」
「ああ、もちろん」
 泊まりのロケ、したことがないわけじゃない。けどこの時期の夏の南の孤島、楽しそうでうらやましいな。
「海とかきれいなんだろうなあ……」
「手塚監督が監督だからスムーズに行くだろうし、もしかしたら少し遊ぶ時間もあるかもしれないな」
「いいなそれ。プライベートで海とか、最後に行ったの何年前だろ……」
 窓の外に目をやってもどこもかしこも建物だらけ。自然なんてアスファルトの端に生えた雑草くらいしかない。流れ行く景色をぼーっと眺めていたら、緩やかにその速度が落ちていき、やがて車が完全に止まった。すぐそこに大型バスが止まっていて何人か見知った顔がある。メガネをかけたアキラくんが車の外へ1歩踏み出した。
「いってらっしゃい。気をつけて」
「ああ、いってきます」
 手を振るアキラくんにかえして、ドアが閉まるのを見た。緩やかに加速していって、その姿は遠くなる。
「……南の島の海かぁ。いいなあ」
 都会の街はその言葉に怒ったのか、信号の灯を赤に変えた。


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