第一話

「はい、今日もお疲れ様でした! また次回よろしくお願いします!」
「お疲れ様でした!」
 三々五々と散っていく共演者の中に、同僚を見つけた。急ぎ足で横に並んで声を掛ける。
「お疲れさま、アキラくん!」
 アキラくんは一瞬足を止めて、それからこちらを振り返った。目があって微笑まれる。
「詩織君もお疲れさま。この後は何かある?」
「ううん、今日はこれでおしまい。アキラくんは?」
「僕もこれでおしまいだよ。舞台の顔合わせは延期になってしまったし」
 それなら、と指をピンと立てる。せっかくお互いこれで終わりなんだから、二人でこっそり寄り道したい。
「もし時間があるならだけど、一緒にご飯食べに行かない? さっきスタッフさんにおすすめの店を教えてもらったんだけど」
「へえ、なんのお店かな?」
「蕎麦屋さんだって。アキラくん好きでしょ、おそば」
 こっそり耳打ちすれば彼はぽんと手を打つ。蕎麦が好きってこと、アキラくんのイメージにそぐわないとは思わないんだけどな……。
「蕎麦か、それはいいな」
「でしょ。そんなに混んでない店らしいし、ゆっくり向かお。……もちろん社長には内緒でね」
 別に同じスターズだし、ご飯程度で怒られはしないだろうけど。一応念の為程度に伝えるとアキラくんの顔がほころんだ。
「そうだな、詩織君と僕の秘密にしておこう。それでその店はどこにあるんだ?」
 二人の秘密はだんだんと撮影を重ねるごとに増えていって、それが嬉しくて。スタッフから聞いた店の名前で検索をかける手がなぜだかうまく動かなかった。


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テーマ「人外ファンタジー」
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