あの夏をもう一度




(これの後日談)

 目をやる先はカレンダー。話の流れで聞いた、彼の誕生日までもう一週間を切った。
「……なにをあげればいいんだろ」
 まぶたを閉じると、思い浮かぶのは去年の夏のこと。暑い暑いあの日のこと。私が一人の女子高生であれたあの日のこと。
 ……ただ自分がしたいことだけれど、今年も『駆け落ち』したいな、と旅行会社のサイトを開いた。


 ――そうして、誕生日当日を迎えた。手には旅行券の包み、それとちょっとしたお菓子。
 なにやら教室の中からがやがやと声がするけど、ここに左右田さんはいるのかな。開きかけのドアを覗き込む。
「……あっ」
「えっ」
 ドア越しの空間から、77期生の幸運の人と目が合った。
「あっ……と。78期生の城咲さんだったよね? ボクらは今左右田クンの誕生日会の準備をしているところなんだ。彼には秘密にしておいてもらえるかな」
「あっ、えっと、はい! ……ってことは左右田さんはまだいらっしゃらないんですね?」
「なるほど、左右田クンに用事があるんだ。こっちは昼休み終わるまでパーティーの予定だから、その後に来てくれれば左右田くんも空いてると思うよ」
「あ、ありがとうございます。準備の方も頑張ってください」
 ぺこりと一礼してドアを閉める。昼休み後か、たまにはさぼっちゃっていいかな。


 ……好評で予定より長引いてるのかな、誰一人として教室から出てこない。
「はぁ……」
 廊下の壁に背をついてため息。いつまで待てばいいのか分からないのは、少し来るものがある。ずるずる、背中の位置が下がってしゃがむような体制になる。
「……なにやってんだァ、城咲?」
「えと、……あれ? 左右田さんっ」
 見慣れた青いツナギが目の前に。姿を認めて立ち上がった。
「お誕生日おめでとうございます。……パーティーはどうなんですか?」
「狛枝に城咲さんが待ってるよって言われてちょっと抜けてきたんだよ。あんま城咲のこと待たせるわけにも行かねェしよ」
「あはは……わざわざすみません」
 でもこうして左右田さんが抜けて来てくれたんだから、こっちも長時間お話するわけには行かないよね。カバンにしまっていた包みを差し出した。
「これ、誕生日プレゼントで……。この箱は最近見つけたおいしいお菓子で、」
「おーおー、あとで食うわ。ありがとな!」
「それでもうひとつのほうが……」
 ……深呼吸をひとつ。一度目を閉じて心臓が落ち着いたのを感じて、それから口を開いた。

「もし左右田さんがよければ……また一緒にどこか行きませんか?」

 じんわりと変わる彼の表情から、目をそらすことはできなかった。



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