01

 ……さあて。
 目の前にあるのは、教室の扉。なるほど導入はこんな感じで……記憶のどこかから先をぶった切って、ここにつなげるような感じなのかしら。
 とにかく、この扉を開けなきゃ始まらない。ここまで来たら逃げるも何もないんだから、覚悟を決めて、いざ!

 なんて、少しオーバーだろうけど。思ったよりなんの取っ掛かりもなくスライドして、中は普通の――いや、普通ではないんだけれど――希望ヶ峰学園の、教室のようだ。机と椅子は17個ならんでいる。それにしても、急に取ってつけたように4×4+1のようになってるのは少し笑える。いやあたしの存在が急ごしらえだから当たり前なんだけど。
 中では1人、既に椅子に座っている少女。今回このプログラムに参加させている人たちの誰でもなさそう……つまり、この子が元から設定されていたもう一人の監視役って訳ね。
「ねえ、そこの」
「……え? あ、私かな? 自己紹介? 私は七海千秋、超高校級のゲーマーでーす。オールジャンルでイケまーす。……よろしくね?」
「なんでそこ疑問系なのよ……」
 定型文として作られてそうな自己紹介文以外のレスポンスの遅さが気になる。けど、プログラム上の存在なんだし、徐々に知識やらなにやらを蓄積して違和感のない存在になってくれるんだろう。見た目は人間と遜色ないんだし。
「ひとまずあたしも自己紹介しとくわ。あたしは火灯ころね」
「……それで……えっと、火灯さんの才能はなんなの?」
「"超高校級の幸運"。そしてあんたと同じ、未来機関側の人間よ。よろしくしましょ、七海」
「……あー……そういうことなんだ。……それじゃあ、こちらこそよろしくね」
 ちょっとずつ喋り慣れてきたような彼女はさっきよりAIっぽさが薄れていて。やっぱり不二咲やら月光ヶ原やら松田ってば凄いのねー、さすがは超高校級。いや、面識ほとんどないけど。
「それで、このプログラム世界の中ではあたしの才能は内緒だから。覚えといて」
「……わかったよ、火灯さ……ん……zzz」
「いやほら、立ったまま寝ないでせめて座りなさいよ」
 素性不明、だなんて信用できるかと言われればまあ当たり前のようにノーなんだけども、ぶっちゃけそれはあの中のどのメンツでもそう変わりはしない。ダブル御曹司はまずアウトだし、ダブル幸運もありえない。かと言って探偵は血生臭そうであたしなら避ける。あいつあんまり愛嬌を振りまくキャラでもないし。七海はなんかふんわりしてるし眠たげだし頼りになるかもよくわからない。……よく考えなくてもこれ、あたしが行くのが一番正解だったのね。結果論だけど。
「……ふぅ」
 そろそろ他の人が入ってくる時間、なんだろうか。腰掛けた椅子で余った足をぶらぶらさせる。
 諸々の懸案事項、それの対策案。顔は上げたまま、口には出さずに脳内で思い浮かべる。誰も彼も危ない人ばかりだけど、一番気をつけなきゃなんないのはカムクライズルよね。……って言っても希望ヶ峰入学時の姿になるはずだし、ええと、それだと日向創になってるのか。この場合だと彼は自分が予備学科と認識しているのか、それともコロシアイ学園生活のときの霧切みたいに、自分の才能を思い出していないていで行くのか。後者のほうがあたしとしてはありがたいけど、どこかの誰かさん達のせいでしばらくは不運なはずだから前者の可能性のほうが高そうだ。
 机に肘をついて入り口を睨む。次に入ってくるのは、果たして誰だろう。




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