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 普段と違う階に行くのは、なんだかちょっと不安だ。77期生の先輩たちのクラスはまだホームルームが終わってないみたいだけど、なんというか……空気が違う、気がする。さすが、厳しいと噂の実技試験を一回くぐり抜けただけあるのかな、と息を吐いた。
 その瞬間、教室のドアが開いて女性が出てきた。この人は知っている。77期生の担任の雪染先生だ。雪染先生は丁寧にドアを閉めてこちらに歩いてきて、そこで私と目があった。

「こんにちは。あなたは……確か78期生の子よね?」
「あ、はい! 78期生の超高校級の"照明監督"、城咲未明です!」

 雪染先生にぺこりと頭を下げる。タイミングを同じくして先生もお辞儀をした。

「それで、誰かに用事でもあるの?」
「えーっと、左右田和一さん……超高校級の"メカニック"の方って、今日いらっしゃいますか?」
「左右田くんならまだ教室にいるはずだよ。私が呼んだほうがいい?」
「いえ! 自分で呼びに行かないと! 仕事の依頼のようなものなので!」
「そうなの? 仲良くしてあげてね、城咲さん」

 じゃあねーと言って立ち去っていく先生に再度頭を下げて、私は教室のドアをノックした。ざわついていた教室が静まるのが、外からでも分かった。しばらくして、中からどうぞーと声が聞こえる。ドアを開けて教室の中を覗き込む。

「入ってきてもいいっすよー!!」

 教室の中からそんな声がして、お言葉に甘えて体を滑り込ませた。いろんな人の視線が刺さる。まずは自己紹介から、かな。

「あの……城咲未明です。えーっと、78期生の超高校級の"照明監督"で、その……超高校級の"メカニック"さんっていらっしゃいますか?」
「あら! 左右田さん、呼ばれていますよ」
「はぁーソニアさんに話し掛けてもらえるなんて光栄です!!」

 私の探し人――左右田さんは、どうやら教壇の目の前の席に座る、ピンク色の髪に帽子を被った青いジャージの男性のようだ。彼の隣の席に座る女の子……いや、女性が私を指差し、彼がそれに従う。ぱちり、目があった。そのまま席を立って、こちらへ歩いてくる。

「あー……オレに用っつったか?」
「はい! えっと、その、た、頼みたい事がありましてですねっ」
 こういうとき、なんと切り出せばいいのだったか。普段から依頼はされ慣れているはずなのに、どうして頼む側になるとこうも駄目なのか。

「ちょっと左右田! 城咲さんが怖がってるじゃん!」
「いやオレの今の受け答えに怖がられる要素ゼロだろ!」
「あの、いや、怖がってる訳じゃないですから! 全然違いますから!!」

 なんか変な方向に話が進んでしまっている。というか、あらぬ勘違いをされてしまってなんだか申し訳ない。初対面なのに。

「で、城咲だっけ。何の用だ?」
「あぁ、えっと……修理を頼みたいんです、ホールの照明の。もうすぐ実技試験なのに壊れたみたいで。そうしたら、先生にあなたを紹介してもらって」
「ホールの照明? つーことはお前、超高校級の演劇部とかか?」
「いえ。超高校級の"照明監督"です」
「おいおい、さっき言ってただろうが……少しは人の話を聞いとけっつーの」

 左右田さん、さっきから散々な言われようだ。自己紹介を聞かれていなかったのはちょっとへこむけど、なんだか少しかわいそうになってきた。

「で、その修理はいつやればいいんだ?」
「できるだけ早くお願いできますか? 慣れておきたいですし、試験までには」
「んじゃ、ちょっと今から見に行くわ。準備して待っててくれねーか?」
「い、今からですか!?」
「都合ワリーなら明日の朝でもいいぜ」
「いえ! 今からでお願いします!」
「道具揃えたらすぐ向かうわ。待っててくれ」

 それだけ言うと、左右田さんは私の横を通り抜けて教室の外へと出ていった。あとに残された私は、最初に教室に入った時のような視線を一身に受けた。一歩、二歩、意志とは関係なく私の足が後ろに進む。

「し、失礼しましたっ」

 最後に一礼して、くるりと回れ右。私はその教室から逃げるように出ていった。



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