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ぐ、と踵に力を込める。そう時間を置かずにパァンと威嚇にはもってこいな音が部屋に響いた。
「…………はー」
ひとまずこの潰れた紙パックをゴミ箱に捨てよう、と拾い上げた。ぽいっと放り込んで、これで多少は気分も収まった気がする。うん、それにしてもこのココアは当たりだったなあ――
「城咲!? 何の音だ!?」
――などと言う現実逃避は数秒で消え去った。ガチャリとドアが開き、顔を出したのは右手にレンチを持った左右田さんで。
「は? え、は? えっ左右田さん、な、なんでいるんですか!?」
「なんでって……そりゃ突然なんかの破裂音が聞こえてきたら何事かって思うだろうが」
あれ? 確かここって完全防音なんじゃなかったっけ……。そしたらなんで左右田さんは音を聞くことができたんだろう?
「……もしかしてドア開いてました?」
「カバンが挟まって隣の部屋まで聞こえてきたぜ、ほらこれ」
「あー……ほんっとすみません」
渡されたカバンの中の企画書を握りつぶしてゴミ箱に投げる。……けど、そんなにコントロールがよくないためか、ゴミ箱の手前にぽとりと落ちた。私よりゴミ箱に近い左右田さんがそれを拾い上げてゴミ箱に入れ直してくれた。
「紙パックが潰れてる、ってことはさっきの音は飲み終わったやつを踏みつけたってところか?」
「……正解です」
子供向けの科学番組で紹介した、身近なもので人を驚かせるための方法だったか。あとで見たときに、防音設備がしっかりしたところでやりましょうとテロップが出ていた記憶もある。
……驚かせるためじゃなくてストレス発散のためにやってる、だなんて紹介した側の人がやることじゃないか。でもなんというか、緩衝材のプチプチを雑巾絞りの容量で一気に潰したときと似たような感覚を覚える人は少なくない気がする。
「――左右田さん、今時間ありますか?」
お茶くらいなら出しますから――と続けて椅子を引く。おおかた今朝話していたエアコンの修理に駆り出されてるのだろう、休憩ついでに少しくらい話をしても、バチは当たらないだろうし。