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 来たるべきホールの照明メンテナンスのため、ひとまず調子の悪い部分をリストアップしていこう――と数日前にまとめたメモを持って、噴水前へと向かう。約束の時間よりもだいぶ早めに来たことだし、多分左右田さんはまだ来てないんじゃないかな。

「……ん、あれ?」

 あの目立つ髪の色、どこから見ても左右田さんだ。もしかしなくても待たせちゃってた?

「お待たせしました……ごめんなさい、こっちからお願いしてたのに。あ、そうだ、おはようございます」
「おー、おはよう城咲。オレもさっき来たばっかだし気にすんなよ。それにまだ約束してた時間じゃねーしな」

 左右田さんが外見に反して真面目な人だってことくらい分かってたのに、なんでかなあ。出だしから締まらない。

「あ! えっと、工具箱持ちましょうか?」
「いや、これくらいならいつも運んでるし平気だぜ。多分城咲には重くて持てねーんじゃね?」
「……こう見えてもそれなりに力はあるんですよ!?」

 照明器具だって、機械だしかなり重い。スポットライトを動かすにもそれなりの力は必要だし、それを搬入したりするときはそれ以上に。もちろん左右田さんがそんなこと知ってるだなんて思ってないから仕方ないけど、なんだか自分が過小評価されてるようでちくりと胸が痛んだ。

「なら、せめてなにか運ぶのだけでも手伝わせてもらえません? その、えっと、……私が頼んだんですし」
「おー、それじゃこれ持っててくれるか?」
「……わかりました」

 渡されたのは、左右田さんが普段持ち運んでる小さな工具箱。軽くもないけど重くもない。……まあでも仮にも後輩なんだし、自分が持ってるより重い物持たせるわけにはいかないってわけか。先輩に花を持たせる……じゃなくってなんて言うんだっけ。ひとまずそういうことだと納得させて、口にしかけた反論はぐっとこらえる。
 それにしても、普段使ってるようなものをほいほいと他人に預けられるなんて凄い人。私だったら絶対嫌だし、そんなに手伝いたいならあっちの大きいやつを持ってもらうけど。……もしかして、これを持たせてもいいって思えるくらいに信用されてるとか? なんて考えは、ちょっと飛躍し過ぎかな。

「んで、城咲が特に気になるのってどこだ?」
「え、あっ、と……ホリゾントが赤だけ強くて青と緑が全然出ないのとウォールウォッシャーが曲がってるのと……というか、それまとめた紙があるのでホール着いたらお渡ししますね」

 書き連ねた内容を指折り思い出して口に出すけど、左右田さんからしたら訳の分からないカタカナの羅列にしか聞こえないんじゃないかな。そう気がついて途中でやめる。気になるところなんて両手でも足りないくらいあるし、もしかしたら左右田さんじゃどうにもならないのもあるかも。
 ……とにかく今は点検に集中しなきゃ。バーだって下ろすだろうし、ぼーっとしてたらなんかしら事故が起きちゃうかも。工具箱を持ってない左手の甲で頬にぺたりと触れる。そこから徐々に頭が冷えて、ホールに着いたら水分補給しなきゃと思い出した。



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