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 午後の授業を終えて、放課後。教室からだんだんと人がいなくなって、ついには一人になった。せっかく時間があるんだし、ぼーっと左右田さんを待つんじゃなくって依頼された劇の照明プランでも考えておこうか。今は教室に誰もいないし、練習の映像はパソコンの中とはいえ衣装の写真や舞台の大道具のイメージはスマホの中にも入ってることだし。

「うーん、ここはフェードアウトかなぁ……それで中央だけサス残して一人だけ照らす感じで」

 付箋にさらさら書き込んで、台本の該当箇所に貼る。ああでもこの劇団の方たちは動きが独特だしそこを活かす方がいいかな。後でじっくり確認しないと。
 シャープペンを下唇に押し当てながら唸り声を上げる。大まかなプランはとりあえず後回しにして、キャストの一人一人が目立つシーンのホリゾントの色でも考えようか。

「……おーい、城咲」

 聞こえた声に顔を上げるといつの間にやら左右田さんが目の前に座っていて、台本を覗き込むようにしていた。

「あっ、すみません気付かなくて」
「いや、仕事中だった? ワリーな」
「謝らないでくださいよ! お願いしたのは私の方ですし落ち度はむしろすぐ気づけなかった私の方にありますから!」

 さっと台本を閉じて隣に伏せておいた手帳を開いた。休みの日は普段より仕事が多く(むしろ平日の仕事がかなり少ないと言った方が正しい)、うまく左右田さんと噛み合うのか心配だ。

「とりあえず、城咲の一番近い丸一日オフの日っていつになるんだ?」
「丸一日オフですか? んーと、再来週の火曜日ですね」
「来週の火曜か、確か何もなかったはずだからそれでいいぜ」

 そんな不安も取り越し苦労だったみたいだ。左右田さんのオッケーも出たので、その空いていたスペースに用件を書き込む。希望ヶ峰ホール照明チェック、っと。

「細かい時間はまた近くなったらでいいか?」
「あー、そうですね……何かと使うかもしれませんし連絡先交換しません?」
「そうだな。じゃあこれQRコード」

 手早くラインを開いて読み取る。表示された画面をさっとタップして、友達登録。仕事以外で"友達"が増えるのはいつぶりかな。

「それじゃ、城咲の仕事もあるだろうし俺はこれで。またあとで連絡するわ」
「あ、はい! ありがとうございます!」

 きゅっと握りしめたスマホの画面にはエンジンの写真。

「……わざわざ一日取ってくれるなんて、いい人なんだな」

 ぽつりも零れたのは、きっとお世辞とか立場とかそういうの抜きにした言葉だった。



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