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 実技試験も無事合格して、左右田さんに報告と改めてお礼をしに、昼休み開始早々彼のいる教室へ向かった。はじめの3歩を駆け足で進めば、教室の中から廊下を走るのはやめたまえと石丸くんの声が聞こえて、私は苦笑しながら走るのをやめた。
 授業担当の先生が出ていったまま開けっ放しになったドアから顔を覗かせ、左右田さんの所在を確認。一番ドアに近い席に座る男性と目が合い、すぐ逸らされた。

「……おい、左右田。貴様の元に来客だ」

 目の前の彼は二つ隣の左右田さんに声を掛けてくれる。今にもお弁当を食べようとしていた彼はその声に顔を上げ、視界に私の姿を捉えたようだ。

「うおっ、城咲か! 実技試験どうだった?」

 持っていた箸をケースに戻してから席を立ち、教室の外へやってきた左右田さんが問う。

「バッチリでしたよそりゃもう! 左右田さんのおかげです。ありがとうございましたっ」

 軽く頭を下げて礼を述べると左右田さんは手をひらひらと振って返してくれる。

「オレもはじめて照明器具弄れて楽しかったしよ、また調子悪くなったら言えよ?」

 ビッと親指を立ててウィンクをする彼に微笑みを返す。

「ありがとうございます! ……まあ、そんなにしょっちゅう修理する必要がないのがいいんですけどね、一番は」
「そりゃそうだけどな。機械である以上、修理は必須だろ? 呼んでくれりゃ直すしなんなら今度全体的にメンテナンスしとくぜー」
「そうですね。それじゃあお願いします、先輩たちの試験が終わったら。照明器具一式古いのにそんなにこまめに手入れしてないみたいで……業者さん頼んでもらえる気配がないんですよね、先生に頼んでも曖昧にぼかされるだけで」

 調光室の取扱説明書によると、あのホールの照明器具は確かメーカーがパーツ生産をやめていて、足りないパーツを取り寄せて修理するというわけにもいかないものだった。

「何年前のモデルなんだ? かなり古いならここの評議会なら照明関連一新しそうな気がするし、もしかしたら買い換える予定でもあるのかもしれねぇな」
「あー……なるほど。それはありそうですね。あれもうパーツの取り寄せできないですし。せめてもの救いはまだ全体的にガタが来てるってわけじゃないことですかね」
「そんなに前のなのかよ! ま、とりあえずどっか休みの日にでもやればいいんだな。任しとけ!」

 なんというか、頼りないのに頼りがいがある人だな。そんな感想を抱いて目の前の左右田さんに向き直る。彼の肩の向こうに教室の中が見えて、フタが空いたお弁当箱が目に入った。……そういえば左右田さんお弁当食べようとしてたんだっけ。あんまり引き止めてても悪いだろうし、この辺で引き上げよう。

「それじゃあ、また後で日程決めませんか? 一応私いたほうがいいでしょうし」
「おう、そうだな。んじゃ放課後そっちの教室行くわ」
「なんって言うか……ありがとうございます、わざわざ時間取ってもらって」
「いや、言い出したの俺だしな。じゃ、また放課後な」
「はい。それじゃあ、失礼しました」

 ひらひらと手を振って教室に戻る左右田さんに最後に一礼。ドアが目の前で閉められたのを確認して、ふぅっと息を吐いた。



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