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77期生のいる教室から足を止めずにホールへ向かう。ドアを開けて、暗闇の中を照明盤まで歩いた。ぽちりとそれの電源を付け、舞台のボーダーライトと客席の蛍光灯を点けた。
さて、彼は準備しておいてと言っていた。つまり、その壊れたライトを修理できるように下ろしておけばいいのか。カーディガンのポケットに入れた鍵を照明盤にある鍵穴に差し込んで、舞台前方のサスペンションライトのあるバーを下げた。数分後、地面の数センチ上でぴたりと止まったそれを見て、左右田さん早く来ないかな、と心の中でつぶやいた。
「お、城咲。ワリィ、待たせたな」
ちょうどその時、客席の入り口から大きな工具箱を持った左右田さんが現れた。横の通用口を教えてなかったな、わざわざ上の階に上らせちゃって申し訳ないな。
「いえ、ちょうどよかったです。このバー降りきったばっかりなので」
壊れたライトがわかるように、その部分だけ明かりがつくようにスイッチをオンにした。本来はみっつ点灯するはずだけれど、真ん中の一個は光らない。
「なるほどな、真ん中のだけ調子悪いのか」
明かりを消してくれ、と言われてつけていたサスペンションを消す。細々とした調整には、きっと手元に明かりがいるだろう。ボーダーライトの出力を上げる。しばらくの後に舞台上からカチャカチャと金属が触れ合う音がしはじめた。迷惑にならないならその仕事ぶりを見たい、かも。足音を立てないように作業をしている左右田さんに近寄った。
「あーなるほど、ここが緩んでんのか……」
蓋を外して中身をばらして。彼が見つけたのは緩んだネジと宙に浮いたプラグだった。きっちりと差し込み直してレンチできつく締める。それから先は、先ほどの工程を逆再生するように。
「これで大丈夫なはずだぜ」
レンチを持った右手の親指を立てて笑う彼に、バーから離れるように告げる。実際に避けたのを確認してから照明盤の上のボタンを押した。ゆっくりとバーが上昇していく。上昇中と書かれたランプが消えたのを見てからぽちりとその場所のライトを点けた。真下で腕を組む左右田さんの隣に駆け寄り、自分も上を見上げた。みっつの光が目映い程に目に刺さった。
「あ……ありがとうございます!」
「直ったなら良かったぜ。最近機械弄ってなくてよォ。失敗しなくて良かったわ」
「いや失敗されても困りますから!!」
「歩行機能とかつけようか迷ったけど、まぁこれでいいだろ」
「いらないですよそんな機能は! ってか宙吊りされてるからつけたところでどうしようもないですよね!?」