折木奉太郎

ない、ない。
一度家から一番近い横断歩道で取り出したときには付いていた。取れそうだと心配にはなったけど、まさか現実になるとは。ごめん摩耶花、絶対に見つけるからね。


「雨の中道端にしゃがみ込むとは、一体どんな趣味なんだ?」
「ストラップ落として。多分ここら辺だろうから」
「スカート濡れるぞ。既に裾は濡れているが」
「学校帰り?お帰り、奉太郎」
「ただいま」


垂れたスカートに触れると奉太郎の言う通り確かに濡れていた。うん、これくらいなら干しておけば乾くだろう。それから視線を奉太郎へ。「物好きだな」、彼の視線はそう言っている。


「会うの久しぶりだね。元気だった?」
「特に変わらん」
「あ、摩耶花に教えてもらったんだけど、部活入ったんだって?」
「…半ば強制的にな」
「古典部」
「まあ。会ってるのか」
「たまに。聞いてない?」
「ああ」
「ま、言う必要もないし」
「まあな」


個人的な好みは無視をするとして、奉太郎と雨は合っていると思う。
好みと言ってもどうせこの男はかんかん照りも嫌いだし雨でじとじとしているのも嫌いなんだろうけど。好きな天気ってあるのかな、意外と知らないものだ。


「楽しい?古典部」
「どうだろうな。…なまえ」
「何?」
「家に入りたいんだが、俺は」
「あ。ごめん、ばいばい」
「………」
「え、何?」
「ストラップ、そんなに大事なのか?」
「高校入学前に摩耶花にもらって。大事だよ」
「………」


何で黙る。
しかも向けられるのは呆れた視線、それはまあ、奉太郎にはどうでもいいかもしれないけど。嫌な目だな。


「手伝う」
「……幻聴?」
「失礼な奴だな」
「だって折木奉太郎だし」
「たまにはだ」
「ありがとうございます」
「取り敢えず、鞄置いて来る」


そう告げて背を向けたかと思えば突然足を止めた奉太郎。顔だけを巡らせて、私を見る。


「…なまえ」
「ん?」
「何で今の高校にしたんだ、お前」
「行きたい大学の指定校もらえるから」
「学生の鑑だな」


ああ。
奉太郎のこと、私は変わらず好きらしい。



end.

20120620

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