緑間真太郎

「雨」という簡潔な高尾の声。そんなことは言われずともとっくに理解しているが、返答がないのを聞いていないと判断したらしく「雨、真ちゃん雨だって!」としつこく口にする。


「煩いのだよ高尾。オレは馬鹿ではないのだから、一度言われたら理解する」
「だったら反応くらいしろよな〜、嫌だとか困るとかあるだろ。色々さ」
「必要がないな」
「むはんのーう…」
「そもそも。お前はオレが傘を持っていないという前提で話を進めているようだが、それが大きな間違いだ」
「は?」


何という間抜け面だ。この顔も大概だが、高尾はおは朝を観ていないというのか、けしからん。蟹座の今日のラッキーアイテムは折り畳み傘、つまりオレは問題なく家に帰れるのだ。


「マジか…!真ちゃん入れて!家まで連れて帰って!今まで馬鹿にしててごめんなさいっ!」
「断る」
「狭っ!心狭くね?確かに男二人で相合い傘はむさ苦しいけどさあ」
「折り畳み傘は通常の傘よりも狭い。どちらを所持していたとしても濡れることに変わりがないのならば、オレは自分の安全を取るというだけの話だ」
「いやさ、大部分は守られるわけじゃん?今日くらい…お、みょうじさん」


唐突な声の変化に思考が追いつかない。いや、それよりも。高尾は今、みょうじと言ったか。


「高尾くん…と、緑間くん。帰るの?」
「みょうじさんも帰り?あ、ひょっとして傘なし仲間?こっちはさっきから真ちゃんにお願いしてんだけど、聞き入れてもらえなくてさ〜!みょうじさんからも是非一言を!」
「え?何言うの?」
「緑間くん、可哀相な高尾くんを入れてあげてーとか何とか、そんな感じで!」
「効果あるかなあ?…えっと、緑間くん」
「オレは傘を所持している。帰宅に困っているなら使うといい」
「えっ?」


半ば押し付けるような形でみょうじに折り畳み傘を渡す。拡張した瞳がオレを射抜き、隣からは不愉快な高尾の笑い声がした。何なのだよお前は。散々文句を言っていたくせに、もう機嫌が直ったのか。


「でもそれだと緑間くんが、」
「気にする必要はない。今日は自主練をしようと思っていたからな」
「ありがたい、けど。帰りに降ってるかもしれないし…」
「行くぞ高尾」
「おまっ、わかりやすっ…!受け取っといてよみょうじさん。明日、直で真ちゃんに返してくれりゃいいからさ!」
「何故お前が偉そうに…」
「うっ、うん!ありがとう緑間くん!」


軽く手を振って、それからお辞儀。忙しなく動くみょうじはふと犬の類を連想させる。子犬、もしくは小型犬に限るがな。


「やっぱ当たらんな、占いは」
「だから駄目なのだよ」
「…馬鹿にしたろ?」
「それ以外の何がある」


当たっているだろう、確実に。



end.

20120612

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