繋ぎ止める為に握る

本日は火曜日。リーダーの希望と熱意により放課後は流星隊をプロデュースするに至ったわけだが、この後輩は誰かやって来る前に手を離してくれるのだろうかと少しばかり心配になる。

言っておくが、手を握られることが嫌なわけではない。俯く後輩を嫌っているわけでもないが、メンバー(ではなく隊員だぞ☆と言われるが)に目撃された際の後輩の心情を思うとひやひやするのだ。しかし「離してくれない?」と口にしたが最後、あらぬ解釈をみせて厄介なことになりそうなのである。だから、このままだ。このまま、途方に暮れるだけ。


「…高峯くん?」


どうしたの。そんな思いも込めながら、呼んでみる。後輩は見慣れた困り顔でこちらを、何ならとても意見したそうに、上目遣いで窺っている。


「可愛い…」
「えっ?」
「あ、ううん。何でも」


体は大きいのに、言葉に反応してぴくりと体を動かす様はまるで小動物。そんな小動物は、みょうじが首を横に振ればどこか不満気に眉を寄せてしまった。


「……可愛いのはなまえさんスよ。小さいし、手なんか肉球みたいだし。なまえさんは小型犬、あっ!子猫とか子犬っぽくもあるかも…!いやでも、ゆるキャラ…」
「――…うん」


この後輩、高峯翠には以前からゆるキャラに似ていると好かれていた。ゆるキャラ以外にも可愛いものが好きなのか、そういった類いの話をする高峯は普段には欠けている輝きを大いに放っている。それをユニット活動でも見せたならあのリーダー(これも「隊長だ☆」と訂正されたのだったか)は喜ぶに違いないのだが、正反対の位置にいるような二人であるからどうにも上手くいかない。熱血漢という言葉が服を着て歩いているような存在に、嫌いとは言わずとも少なからず苦手意識を抱いているのだ、高峯は。


「…あの、俺はなまえさんのこと好きなんで、嫌いとか言わないでください。そんなの鬱すぎて死にたくなる…」
「あ」
「あ?」


今にも泣き出しそうな表情で告げる高峯に、みょうじはようやく合点がいった。しかし高峯の顔に浮かぶのは当然疑問で、これは選択を間違えたし酷いことをしてしまったなと思う。

冗談というのは、相手がそれを冗談ととって軽く流してくれるから成立するのだ。普段からマイナス思考気味で、軽い一言も重く受け止めてしまいがちな相手には決して言ってはいけない。どんな反応をするのかなんて、そんな気持ちでボールを投げてはいけなかったのだ。だから結果的に高峯はみょうじの手を握って落ち込んだようなすがるような、叱られたあとに様子を窺う子供や犬のような顔をしているに違いない。

それならば。静かに胸の内で頷いて、みょうじはしっかりと高峯と目を合わせる。


「ごめんなさい、高峯くん」
「ごめんなさい?えっ?」


ゆらゆら。今にも涙が零れ落ちそうだ。ネガティブになりやすいこの子は、一度ネガティブな方向に思考を働かせるととことん前に進まなくなる。きっと、この「ごめんなさい」にもみょうじが思ってもいない意味を作り出したに違いない。

だから早く言ってあげなくては。悪いのは、自分なのだから。


「嘘なんだ」
「嘘?…えっと、なんスか?どういう意味…?」
「嫌いって」
「嫌い……え?うそ…」


ぱちくりと瞬きをした高峯に合わせ、頬を涙が伝う。その姿が何故だか可愛く見えてつい笑ってしまった。不安そうな高峯は、もはや普段通りなのか特別気落ちしているのかわからない。


「守沢先輩にもやったんだけど、改善点があるのなら遠慮なく言ってくれ!って言われて。高峯くんはどうなんだろう?って思ったんだけど…ごめんなさい、高峯くん。冗談でも言っちゃいけなかったね」
「守沢先輩にも…ああ…そうなんスね……」
「私、高峯くんのこと大好きだよ」
「大好き…」


大好き、という単語を耳にした高峯はうっすらと頬を染め、視線を落とす。困ったような恥ずかしそうな、それでも何かを主張するように、みょうじの手にわずかな力を込めて握っている。


「そういう心臓に悪いことはするんじゃないって怒られちゃった、守沢先輩に」
「…そうッスよ。それだけは、守沢先輩に同意です」
「うん、ごめんね」
「笑いながら言われると全然謝られた気しないんスけど…」
「うん、ごめん」
「だから、…もういいッス。嫌われてないんなら、それで」


つられたのか自然にか、高峯の表情が綻び口許には笑みが浮かぶ。

そう、見たかったのはこれだ。怠そうな憂鬱そうな顔ばかりしているから笑顔になってほしいと思っていたのに、何をしているのだろう。どうしたのだなんて、高峯にしてみたら嫌いと言った口で案じる素振りを見せるみょうじこそ「何なんですか」と尋ねたくなる相手ではないか。


「あ。でも」
「ん?」
「ひとつだけ確認いいッスか?」
「うん、どうぞ」
「大好きってそれ、守沢先輩も?」
「うん。色々あるけどね、それも」
「俺への――…やっぱいいッス、何でもないです」
「そう?」
「…何でそうやって笑うんスか。じゃあ、聞いたら教えてくれるんですか?」
「教えない」
「ほらぁ…」


意地悪だ。そう言って拗ねる表情が堪らなく可愛い。だからつい、だからまだ。

黙って手を握られたまま困ったり笑ったりしていたいと、思ってしまう。



end.

20151222

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