ちょっと強引に

部屋から出てきた姉さんは、僕を見るなり馬鹿みたいに頬を緩めて幸せそうな楽しそうな笑顔を浮かべた。僕はと言えば、そんな姉さんと目が合ってしまったことが憂鬱で仕方がない。

姉さんは、いつだって話を聞かない。その声色や話し方から気遣いの出来る優しく聡明な人だと思われがちなのかもしれないけど、こうと決めたら曲げないし強行手段に出る人だ。そんな愚痴をリョウマ兄さんに溢したら、「なまえがそれだけお前に甘えているということだろう」なんて言うから思わず眉を寄せてしまった。あの時の優しい穏やかな、僕を見守る親のようなリョウマ兄さんの微笑みは忘れない。なんだって、あんな表情が出来るんだろう。


「タクミさん!」
「嫌だよ。サクラなら喜ぶんじゃない?」
「サクラさんの手は、さっきお話ししながら握っていました。頭も撫でたんですよ?サクラさん、とても可愛らしかったんですから」


タクミさんにも見せたかったです。姉さんは嬉しそうに笑って、言う。そんなことを自慢されたって少しも羨ましくなんてないんだけど。サクラが可愛い妹だなんてこと僕も知ってる。何なら、姉さんが知るより前から。リョウマ兄さんが格好いいことだってヒノカ姉さんが優しいことだって姉さんが知るより前から知ってるし、姉さんが見ているよりも沢山見ているしわかってる。


「やりすぎてサクラに呆れられなければいいけどね」
「大丈夫、そこはちゃんと抑えていますから。本当なら抱き締めてしまいたいところを頭を撫でるだけにしているんです!」
「自慢気に言うけど別に偉くはないから。…姉さんって変だ、やっぱり」
「そうでしょうか?」
「どうしてそんなに触りたがるの?」
「う〜ん…可愛いから、ですか?」
「知らないよ」


ちらり。姉さんの視線が動く。気にしているのは、僕の手だ。僕が断ったことなんて忘れているのか気にしていないのか、まるで遊び道具を目の前で振られている犬猫みたい。


「…嫌だからね」


念を押す。
残念そうな顔をしてるけど、これが本心じゃないことくらいわかってる。すっかり白夜に馴染んだ姉さんは、リョウマ兄さんやヒノカ姉さんについて回り、サクラをこれでもかと可愛がり、僕のこともサクラと同じように撫でて甘やかそうとする。それで頼られることが減ったって、ジョーカーが嫌味ったらしくしくしごいてくるから面倒くさい。僕からしたら姉さんは充分すぎるくらいジョーカーに頼ってるし、何ならリョウマ兄さんは誰からも頼りにされて当然の立派な人なんだから仕方ないだろって思うんだけど。だから僕だって、兄さんたちが肩の力を抜いて頼ってくれるような人間になりたいのに。


「…隙ありです!」
「っ!?…あ!ちょっと、姉さん!」
「ぼーっとしているタクミさんがいけないんですよ?どんなときも油断大敵、リョウマ兄さんだって言っていたじゃないですか!」
「子供じゃないんだ!こんな姿、皆に見られたら恥ずかしいだろ!」
「手を繋ぐくらい誰だってしますよ。恥ずかしくなんてないです!だから、絶対に離しませんからね?」
「オロチは絶対に馬鹿にする!遊ぶに決まってる!」
「そうなったらオロチさんも巻き込みます!」
「僕の意見を聞けって言ってるの!」
「聞こえませんよ〜、タクミさん」
「姉さん!」


ああまったくもう、馬鹿みたいに笑っちゃってさ。こんなの格好悪いじゃないか絶対に。姉さんは本当に、ああもう、本当にさ!



end.

20160127

第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
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