東堂幼馴染と真波

東堂さん。
確かに私はそう声をかけて、ちゃんと返事を確認した。

だけどひょこりと顔を出したのは捜していたその人ではなく、その人と同じポジションの同級生で。あれ、おかしいなと思う。確かに声は東堂さんのものではなかった気がするけど。扉越しでくぐもって聞こえただけだろうと、そんな風に考えて一人納得したのだ。


「みょうじさんだ。残念、今東堂さんいないよ」


入る、と。確かに前に東堂さんに入れてもらったことはあるけど、あのあと荒北先輩に怒られたって言ってたような。部外者は不味いんじゃないかな。福富先輩はその時の東堂さんの行動を「珍しい」と言っていた、らしい。東堂さんはああ見えて規律は守る人だから、見たことのない部外者を自己判断で入れたことに驚いたんだろう。


「東堂さんに呼ばれた?」
「うん。放課後部室に来いって言われて」
「ふうん。デートでもするの?今日練習なのに」
「デート?…東堂さんがするわけないじゃん」


きゃあ、と黄色い声を浴びる東堂さんをいっぱい見てきた。「東堂くん」「東堂さま」と華やぐ声はキラキラしてて、それに答える東堂さんもやっぱりキラキラしている。それから何となく、遠慮をしてしまうのだ。でしゃばっている気がしてしまう、というか。東堂さんもその子たちを蔑ろにしてまで私を優先することは当然、ないので。


「…みょうじさんってさ」
「ん?」
「東堂さん、なんだね」
「え」


真波くんだってそうでしょ、と。言おうとしてそうじゃないと思う。東堂さんはお喋りだから、私を部室に招いたあとに話したのだろう。隠す必要のないことだと判断したら東堂さんは躊躇わないから。


「…うん、東堂さん」
「何で?」
「何でって…んー、中一くらいまでは尽八くんって、名前で呼んでたんだけど。東堂さんってほら、人気でしょ?だから」


嘘ではないんだけど何となく言いづらくてしどろもどろになってしまう。真波くんは首を傾げて瞬いた。東堂さんがあの性格だから陰湿な人っていうのはいないんだけど、気分は良くないでしょう。東堂さんが例えば荒北先輩のような人だったら気にしなかったと思う。東堂さんが東堂さんだから、気になるのだ。


「でもさ、それって。東堂さん寂しいんじゃない?」
「…東堂さんは何も言わないけど」
「えー?絶対寂しいよ、だってさ。あ、オレにも幼馴染みいるんだけど」
「ああ、宮原さん」
「うん」
「そういえば、何で委員長なの?」
「……委員長は委員長だから?」
「うーん?」


真波くんの幼馴染みの女の子。遅刻の常習犯である真波くんを見捨てることなくフォローし続ける委員長こと宮原さん。

真波くんが彼女を宮原さんと呼んでいるのは、見たことがない。


「まあさ、委員長。委員長はオレのこと山岳って呼ぶんだけど」
「うん」
「真波なんて呼ばれたら寂しいよ、やっぱ」


そう吐き出した真波くんは本当に寂しそうに微笑んでいて、東堂さんもひょっとしたら似たような気持ちでいたのかなと急に思う。

今まで考えたこともなかった。
これもきっと、東堂さんが東堂さんだから。


「――…」
「あ、東堂さんだ。新開さんも一緒だね」
「え、あ、……」


東堂さんが何か言っている。「捜したぞ」とか「ここにいたのか」とか、そんなことだろうか。


「ご、ごめんなさい!――…尽八くんっ!」


名前を呼んでみると、後ろで真波くんが笑った気がした。



end.

20140509

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