荒北幼馴染と箱学三年と黒田

同じ場所を行ったり来たりを繰り返す女子生徒。何となく見覚えのある後ろ姿だ。誰だったろうかと考えていると、新開の頭に一人の人物が浮かび上がる。

粗暴で口が悪く、寝起きや疲労困憊の状態であれば人を殺したことがあるのではないかと疑ってしまうほど凶悪な人相になる同級生。彼女はそんな彼の野球部時代やそれ以前も知っている、一つ学年が下の女の子ではないか。


「靖友に用か?」
「あっ!こんにちは、新開先輩。部活終わりましたか?」
「おう。靖友はまだ戻ってないけどな」
「今日は靖友くんじゃなくて――」
「何だ、違うのか。てなると…尽八か?」
「東堂先輩?いいえ、それも」
「オレがどうした?ム?」


あれも違うこれも違う、微妙な表情の後輩と問答していると着替えを終えた東堂が顔を出す。鋭くいて比較的大きな瞳が女子を捉えたかと思うと、今にも爆発せんというように輝きだした。まあ、女子を見ると大抵がこの反応なのだが。


「みょうじではないか!何だどうした、黒田か?黒田に会いに来たのか?」
「こっ、こんにちは東堂先輩」
「うむ!――…」
「………」
「へえ、黒田か」
「いえっ…東堂先輩、顔怖いです…」
「後輩は正直が一番可愛いぞ?」
「靖友くん…荒北先輩に、用事で」
「靖友でいいだろ。みょうじ、おめさんさっき、靖友に用じゃねえって言ってたよな?」
「靖友が耳慣れているな。みょうじ、正直が一番、可愛いぞ?」
「………黒田くん、」
「やはりな!ワッハッハッハ!オレの目に狂いはないっ!」
「寛大だな尽八、真波には手厳しいってのに」


名前を呼んだ声はとにかくか細く、少しでも話していれば聞こえなかっただろう。

恋する乙女とはよく言ったものである。
当の黒田に気づいてもらおうとは思っていないのか、荒北が黒田を呼ぶ度に絶叫が響くのもそろそろ名物だろうか。新開や東堂、果ては福富にまで知れているのは荒北が躊躇もなく口にした所為である。


「用、というか。顔見れたらいいなくらいの…あれなんですけど」
「尽八、おめさん黒田と一緒じゃなかったか?」
「だったんだがなあ。荒北に拉致られた」
「荒北先輩に?」
「面貸せとか言っていたな」
「ええっ!?靖友くん何を、黒田くん死んだりしないですよね!?」
「黒田の安否に関しては、この中で一番荒北を知るみょうじが判断出来るのではないか?」
「靖友は人相は悪いが人殺しにはならないだろ。安心しろ、みょうじ」
「そうですけど!……変なこと言ったり…」


色を失うみょうじの肌。いくら部員の何割かに露見してしまったとしても、流石に本人には言わないだろう。そういう節度はある男だ。みょうじは黒田が好きなのだと口にしてしまったあの瞬間だって「やっちまった」と言いたげな表情を浮かべていたし。


「――っ、靖友くん捜してきます!」
「慌てんでも黒田は、…ああ。聞いとらんな」
「まあ何にしたって、靖友に詰め寄られたら喝上げっぽくなるぜ?」
「確かに!ハッハッハ、半ベソ掻いたりしてないだろうなあ、黒田は」
「迫力が違うからな」


みょうじは大慌てだ。
さて。新開と東堂、こうも楽しくて堪らない原因とは彼女の言動なのか、喝上げが板に付いてしまう荒北を想像したからか。どちらだろうか。


□■□


「ンでェ、黒田チャン。実際どうなんだヨ」
「じっ、実際?あの、何の話を…」
「なまえだよなまえ!おめーがあいつをどう思ってんのか!…答えろや」
「荒北さん、大事なんですね、みょうじのこと」
「るっせ。ピーピー泣いてる頃から知ってるのが馬鹿じゃねーかの確認だヨ」
「……また何か、ニオイます?」
「すっげェ中途半端なニオイだな」
「………何ですか、それ」
「何ですかァ?黒田チャン」
「………」
「荒北、黒田、何をしている」


ピリピリとした空気を和ます、とはお世辞にも言えない重厚感に溢れた声。揃って顔を動かせば間違いなく福富だ。

彼は何時でも変わらない、何時も通りの鉄仮面である。双方、思わず話の続きが口から出なくなるくらいには驚いたらしい。コホンと、らしくもなく荒北が咳払いをする。


「大体なァ、黒田。福ちゃんにもバレてんだよ。今更言い逃れようたってそうはいかねーってわかってるワケ?」
「え、バレてるって荒北さんっ、」
「本人は知らねー。つか、ソコで安心すんのが間違ってんの。ンなのが整理できてねぇで自転車漕げるわけェ?わかってんのか黒田チャンよォ」
「話の最中にすまないが、客だ」
「客?」
「黒田は無事なようだぞ、みょうじ」
「――あ、」
「……福ちゃあん、何で連れてくんだヨ…」
「黒田を捜していたからな。知っていたから教えたまでだ」


グダグダしてねぇでブチ噛ませ、くらい言ってやろうと意気込んでいたのだが未達成のまま終わるらしい。いや、別に福富が悪いわけではないのだが。ただあれだ、タイミングが悪かったのだ。


「なまえ、おめェは十年はオレといてまーだわかんねーのか、ヨッ!」
「っ!?デコピン痛いよ靖友くん!」
「っせ!福ちゃん行こうぜ。バカ共にゃ付き合ってらんねーヨ」
「ちょっと靖友くんってば、あ、福富先輩っ!ありがとうございました!」
「無事に会うことが出来てよかったな」
「はいっ!」


そう言って黒田に向き合ったみょうじが何を言ったのかは知らない。恐らくは何も言えなかった、になるのだろうが。「ユキちゃんって呼んでみたい。それか名前」だなんだと言葉にはするくせに現実は「黒田くん」、しかも目の前にすれば緊張からか硬くなる。

黒田も黒田で荒北に頭を下げにきたあの時からダイヤかと言いたくなるプライドは解けているのだが、どこまで後退したのやら。中学生かと言いたくなってしまう二人だ。


「っとに面倒な後輩だよナァ、福ちゃん」
「何とかしてやろうと動いておいて、よく言う」
「………」


それは幼馴染みが黒田、黒田と煩いからで。

ああ。つい、頭を掻いてしまった。



end.

20140416

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