郭嘉幼馴染と賈ク

そう言われてもなあと、賈クは女の視線を受けながらごちたくなる気持ちを静めつつ考える。

何も彼女は下心があるわけではない。
情ならば確かに抱いてはいるのだろうが、その情というのは恋慕ではなく肉親が抱くそれに近いと、これはまあ、勝手に思っているに過ぎないが。


「俺が言ったんじゃ聞かないんじゃないかね」
「私が言うよりは効果があるかと思います」
「……何でまた?」
「先程も申し上げましたが、奉孝とは親しいでしょう?」
「それはあんたも」
「昔ほど気兼ねなくは出来なくなってしまって。私が女――…ん?やだ、それは違いますね」


一途というべきか些か病的というべきか、話題の中心である男と同郷の女は彼の様子を確認出来るようにと働きに出てきたらしい。しかしここには男の好きな酒や女があるでなし、頻繁に会えるというわけでもなさそうだが。


「出仕をしようとは思わなかった?」
「お仕えするほどの器量はございませんもの」
「繕いものが上手いって自慢してたけどね」
「ほら。やはり親しくていらっしゃる」
「いやあ…これは、別に」


楽しそうにしているのは何故だろう。奉孝の話が出たからか、賈クとの話が楽しくてか。出された酒の味がわからない。まったく、考えてしまったのは失敗だ。郭嘉のことなど賈クにとってはどうでもいいはず、向こう側には色々と確認したいことがあるにしても。


「…これ、郭嘉殿のじゃないの?」
「奉孝はここでは飲んで行きません」
「………」
「ええ。私の様子を見に、暇があれば顔を出してくれます」
「はあ。一応は大事なわけだ」
「というよりも、私が奉孝を気にしていると知っているからでしょうね」
「――なまえ殿は」
「不摂生が祟るのが心配で。漸く巡り会えた方ですもの、末永くお傍にと願っているのは奉孝自身。だから」
「………そう」


微笑んではいるけれど、そう笑っているわけではないのだろう。

何て男だ、と思う。
女の慕情を好きに操り満たされ、恋慕ではない感情までも手に収めてしまうとは。当人がそう仕向けたわけではないと重々承知していても苛立ちが込み上げる。彼女の思い違いもだ。郭嘉との間に仲良しだなんて言葉はまるで似合わない。薄気味悪くさえあるくらいだ。


「奉孝ったら、口の減らない姉だなんて言うんですもの」
「臍曲がりなんだろ」
「そう思います?」
「俺よりはあんたが詳しいんじゃないの?」
「でも、」
「仲良し?」
「姉と口にするときの奉孝と同じ顔」
「それってつまり?」
「わからない、ということです」
「今ほど素直に感情を出したことはないんだが」


姉と甘えていれば逃げないものねえ。

そう告げてもいいのなら、引き受けようか。



end.

20140415

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