法正幼馴染と徐庶

日頃そう二人でいるのを見るわけではなかったが、彼女らは古くからの知り合いらしい。とは言えそれもホウ統に聞いた話で、当人らに確認を取ったわけではないのだが。しかし何となく、以降は二人の間には独特の空気があるように感じられたのだ。

彼に対して呆れたように上下する肩、それから溜息を吐く姿。
成る程と、ホウ統の言葉を難無く受け止められたのは彼女がそんな調子だからだ。そのどれもが徐庶にとっては目を奪うものであり、反応の向かう先が自分になることはないことも承知。

だから、驚いた。
さっぱりこの状況についていけない。


「何か妙なこと言われなかった?」


法正と対する時と同じ、何処か苛立ったような表情。想像もしていなかった事態に言葉が上手く出てこない。何せ彼女と話したことは数えるほどしかないのだ。気さくに声を掛けられるほど、親しくはない。


「ええっと、それは法正殿のこと、かな?」
「そう、法正。あいつと話していたみたいだから、気になったんだけど」
「いや別に。君が気に病むようなことは、何も」
「そう」


ならいいのとなまえは笑む。
徐庶を見ていてそして、気にしてくれた。事実に緩みそうになる頬を引き締め、馴染みの男を見ていたのだろうと思い直す。徐庶にはなまえを見る理由はあれ、なまえにはないのだから。


「あいつあれでしょう。気味悪いし、態度もいいわけじゃないし。…煽るのが好き、というか。だから徐庶殿が狙われたんじゃないかと思って」
「俺が話を振ったんだ、法正殿が憂さ晴らしをしようとしたわけじゃないよ」
「そう?…徐庶殿も言うのね。ま、法正にはそれくらいがいいと思うけど」
「却って俺には羨ましいというか――…あれだけ好きに動けたら楽しいだろうと、思ったりもしてね」
「好きに動く徐庶殿…ん、想像出来ない」


出来ると法正は言ったけれど、出来たとして今この空気はどうなるのか。きっとなまえは驚くし、それに徐庶は後悔をする。

何より、こうして話したことが奇跡に変わってしまうのは避けたい。ならば強烈な印象を残すより地道に、それこそ挨拶程度から重ねていく方がずっと幸せだと思える。


「ああ、俺もなんだ」


そんな想像をしてしまう辺り、まだまだ法正の言ういい性格にはなりきれないのだろう。



end.

20140326

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