あの頃は俺もガキだったんだよ

久しぶりに会ったその人はもうあの奇妙なマスクはしていなくて、それから少し大人っぽくなった気がする。挨拶もそこそこに手を出すことを強要され、手に乗せられたのはペン一本。明らかに、誰かが使っていたものだ。


「…これ、私に?」
「そ。もらってちょうだいよ」
「はあ。…もらう意味が、よく。ジョセフさんのですか?」
「いんや。シーザーの」
「えっ!?それ、もらうわけにはいかないじゃないですか!返しますっ、シーザーさんに渡してください」
「ままっ!いいから持っとけって。シーザーも喜ぶから絶対!」
「探しますよ!だいたいどうしてペン、これ、普段から使っているものなんじゃないですか!?」
「いーから!こんくらいしかなかったのよ!渡すの!」
「どういう、」


時折買い出しに来ていた二人。リサリサさんがいらっしゃることもあって、優しい言葉を掛けるシーザーさんにジョセフさんはよくうんざりといった表情を浮かべていた。口論する姿もこれまたよく見ていて、仲が良かったとは決して言えない二人、ではあったけど。

それでも勝手に他人に私物を渡すような真似(嫌がらせだろうか)はするはずがないし、ジョセフさんは真剣そのもの。真っ直ぐな眼差しが私に疑問と躊躇いを生む。


「…オレばっか沢山もらっちまって。でも、もう手元にないのもあって。物だけが全部じゃないのはわかってる。それでも、出来るだけ持っててほしいんだよ」
「……私に、何で」
「そりゃ、シーザーのこと好きだったから」
「っ、それは、好きですけど…」
「忘れようなんざ思ってねえけど、出来るだけ沢山の人に覚えててほしいんだ。…我が儘だし、怒られんだろうけどな」
「………」


ペンを持つ手をトントン、と軽く叩かれる。
それだけで私は握った手を開くことが出来なくなって、胸まで苦しくなってきた。

ジョセフさんに会うのは久しぶりだけど、そういえばシーザーさんにも久しく会っていない。


「…ジョセフさん、何だか変わりました?真摯というか、…上手く言えないけど」
「色々知って、いい男に磨きかけたのよ」
「何ですかそれ。…わかりました、もらっておきます。ただ、シーザーさんが返せって言ったら返しますからね」
「ん。そうして」



ありがとう。
笑ったジョセフさんの顔からは、あの日見た悪戯っ子の面影が薄れていた。



end.

20131216

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