賈充と納涼

「どうだ?」
「……はい」
「…ふっ」
「賈充殿?」
「いいや」


閉じていた瞳を開き賈充殿を見ると、その唇が弧を描いた。
猫だな、静かな声がそう告げて、伸びて来た手に頭を撫でられる。ぴくりと反応する身体、心臓が煩くなって私は思わず離れた場所にいる二人を見てしまった。王元姫様は、ああ、司馬昭殿と何かお話なさっている。


「暑くはないな?」
「はい」
「そうか」


また、撫でる手。
本当なら私は王元姫様と言葉を交わしていたはずなのだけれど、彼女が行くならと司馬昭殿が続き、よくわからないが賈充殿も着いてきて。気が付けば王元姫様は司馬昭殿と、私は賈充殿と話す運びとなった。

足元は水のお陰でひやりと気持ちがいい。照り付けるような日差しも賈充殿が私に当たらぬように気を遣ってくれている。そして私は、見慣れぬ晒された腕と足にまた目を閉じてしまう。上半身に何も纏わぬ司馬昭殿には何も感じないというのに、腕だけを晒した賈充殿は見ていられない。彼曰く猫のように目を閉じて、そして秘めた感情があるかの様な笑声に気恥ずかしさを覚えるだけだ。


「…なまえ」


呼び声を無視するわけにもいかず、私は諦めたように目を開ける。と、思いの外間近にあった賈充殿の顔に繕うことも忘れ小さな悲鳴を上げてしまった。細まる賈充殿の瞳、これは一体、何と言っているのだろう。


「はっ…はい」
「子上はどうにも、自分が楽しみたかっただけらしい。そのために俺も巻き込んだんだろうな」
「そうなの、ですか?」
「俺がいれば、お前は俺と過ごすことになる。好都合だろう?」
「お言葉ですが賈充殿、私が王元姫様と過ごす可能性は充分に――…」
「俺がそうさせんと子上は知っている」
「賈充殿が……えっ?」


何かされる、そう思ったのに今度は目を閉じることはなく。これでは期待をしているような、いや、しているんだろう。賈充殿の動きが、私を慈しむ度に。


「俺にも益がなければ、着いて来た意味などないからな」


足元から伝わる冷たさが、先程までよりも強くなった。


end.

20130901

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