犬川荘介と肝試し

「すみません、付き合わせてしまって」
「いっ、いいえ」
「なまえさんを巻き込むつもりはなかったんですが、信乃がどうしてもと。毛野さんも面白がってしまいまして」
「大丈夫です。母もこの機に間違いを起こせと背を押してくれましたから」
「間違い、ですか。……最近信乃も何かと口喧しくて。普段保護者扱いを受けるのは、俺なんですけどね」
「はあ」


そうやって頬を緩める荘介さんに胸が締め付けられる。後ろめたさと、緊張と。

荘介さんの知らないところで、私と信乃さんは付き合いがあるのだ。付き合いに関しては荘介さんも当然知ってはいるけれど、食事を提供する仲される仲、客と店員よりは親しい間柄、程度の認識だと思う。信乃さんの見解は、別に聞かれてないから答えない。聞かれても「知らねえ」の一点張りなのではと思ったのは、内緒である。


「でも肝試しだなんて、信乃もどうしたんでしょうね。得意ではないはずなのに」
「…だから現八は張り切っていたんですね」
「そうなんですか?」
「信乃が怖くないように手を繋いでやるか、そういえば前に欲しがってた人形…とか何とか言っていて」
「人形…ああ、あの」
「荘介さん、ご存知なんですか?」
「俺が思っているもので合っているなら、毛野さんも知っています」
「毛野さんもですか」


現八が知っているなら小文吾も。信乃さんに人形趣味があるとは思えないけれど、流石の現八もそこまでの妄想はしていないだろうし。ああそうだ、信乃さんには女の子の幼馴染みがいるんだったか。なら人形を欲しがったのは信乃さん自身ではなく、その幼馴染みの子なのだろう。


「…なまえさん」
「えっ?ど、どうしました?荘介さん」
「幽霊、苦手ですか?」
「幽霊?……生まれてこの方見たことがなくて…見たらどうなるでしょう。私は想像力が弱くて、予想も出来ませんが」
「苦手だったら悪いことをしてしまったなと、そう思って」
「もし何かあったら荘介を頼れと信乃さんが」
「そんなになまえさんが心配なら、信乃自身が組めば良かったんじゃ…」
「それはまあ……そう、ですね」


信乃さんは策略家には向かない。くじを細工するだとかそんなまどろっこしい方法ではなく、私と荘介さんは組めという指定だったのだ。しかもそれ以外は「適当でいいんじゃね?」という投げっぷり。その癖現八の誘いは間髪入れず断るのだから何だか、もう。


「信乃の考えは読めません、相変わらず」
「荘介さんでも、ですか」
「勿論ですよ」
「肝試しも信乃さんがやりたかったというよりは――…」
「いうよりは?」
「……いえ」


私の、ために。
私の想いを知って、あいつもそろそろなんて言って。私より年下のはずの信乃さんは、不意に私よりもずっと大人っぽい。語る言葉だとか視線だとか、ぞっとするくらい冷静なんだ。


「…無理には聞きません。なまえさん」
「はい」
「ただ俺はきっと、信乃に言われなくてもちゃんと守りましたよ」
「それは…」
「はい。なまえさんを」


間違い、起こってしまえ。



end.

20130807

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