郭嘉と門出

「いいの?」
「はい。そう物はないので」
「まあ確かに。随分と早く片付いたね」


それだけを口にすると郭嘉様は柔和な笑みを浮かべ私を見る。

私は郭嘉様のこの表情が少しだけ、苦手だ。
嫌悪ではなくどうしたらいいのかわからなくなってしまうから。言葉がどこかに消えたように出なくなり、見抜いている郭嘉様は一層優しげなお顔をなさる。それが、苦手。


「…えっと、その。ご足労いただきまして。家の者にやらせましたのに」
「私が行くと言ったときの使者の顔、あなたにも見せたかったな。思わず笑ってしまったよ」
「左様で」


短く答えてはっとする。もっと愛想のある答え方があったのではないかしら、郭嘉様は気にしてはいらっしゃらないし、寧ろ私の心情なんて読んでしまっているのだろうけど。


「なまえ、徐々に慣れてくれたらいいよ」
「…はあ」
「だから、そんな申し訳なさそうな顔はよしなさい。あなたは悪いことをしたわけではないのだから」
「……ありがとうございます」


女中は郭嘉様の行動を物好きだと言った。
それもそう、わざわざ荷運びを郭嘉様がなさる必要は。私の疑問に郭嘉様は「あなたの顔を見たかったからね」とやはり苦手な微笑みでおっしゃった。何でもないことのように、日常の一端のように。


「こうして見るとなかなか広い。何度か過ごしはしたけれど、これはまた新しい一面だ」
「そうですね。私も、久しぶりに目にしました」
「やはり惜しいと思うものがあったら遠慮なく言うといい。使いを送るよ」
「そんな、…はい。お言葉に、甘えさせていただきます」
「是非」


断るのは、もはや遠慮ではない。これからは互いに寄り添い生きていくのだ。郭嘉様のお言葉に頷くこと、それも無礼にはならず、郭嘉様が私に寄り掛かることもまた喜びに。そうして、これからを。


「出来る限り、あなたに添うように。我が儘も楽しみだな」
「我が儘、ですか?」
「どんな無理を強請るだろう、私はどうやってそれを叶えるだろう。考えただけで楽しくなる」
「……が、頑張ります」
「頑張るか。うん、頑張って」


新たな道を、この方と。



end.

20130503

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