ジョーリィ

「もう終わり?」


開けっ放しにしていた窓から聞こえた声に手を止める。
この時間に耳にするにしては随分と可愛らしい幼い声。何処かで聞いたことがあったかと考えてみるが、思い当たる節はない。


「何か欲しいものがあった?」
「うん。ケーキ」
「ケーキかあ、お母さんに頼まれたの?」
「ううん。あげたいんだ、ジョーリィに」
「………ジョーリィ?」


無垢な笑顔でとんでもない名前を吐き出した少年はいったい彼の何なのだろう。あの相談役という似合わない役職を拝命している男と少年、共通点を捻り出そうにも何も落ちてきやしない。例えば息子、いやしかし、あの男が人間の女に恋愛感情を持つとは思えないのだが。


「うん。お姉さん、ジョーリィを知ってるの?」
「君の言ってるジョーリィかはわからないけど、ジョーリィは知ってるよ」
「ジョーリィはね、僕をいい子だって褒めてくれるんだ。頭だって撫でてくれるんだよ」
「…やっぱり私の知らないジョーリィかな…」
「大好きな人には贈り物をするんだってお姉ちゃんに教えてもらって。だから僕、ジョーリィにケーキをあげようと思ったの」
「お姉ちゃん?」
「えっとね、確かジョーリィはお嬢様って呼んでた」


この子の言うジョーリィは間違いなく私の脳裏に浮かんでいるジョーリィ、少年も同じ姿を描いているのだと確信する。お嬢様はフェリチータお嬢様のことだろう、最近ファミリーの一員になったのだとパーチェが言っていたし。


「…ジョーリィが頭を撫でる…ねえ君、いつか頭からバリバリ食べられるんじゃない?」
「ジョーリィはそんなことしないよ!」
「いやするでしょ、ジョーリィだし」
「私は、随分な評価を君から受けているようだな」


足音に顔を上げたらこちらに向かって来るジョーリィが見えたのだ、何も驚くことはない。ただ少年は心底驚いたようで、瞳を丸くして男を見ている。本当に知り合い。確かにその結論には至ったけど、本当にジョーリィがジョーリィとは。


「ジョーリィ、隠し子?」
「まあ、ある意味では隠し子か。君の言葉に語弊はないよ、なまえ」
「何そ――…ああ」
「珍しく理解がいい。ルカにでも聞いたか?」
「錬金術の師匠なんだっけ?ジョーリィが研究室に引き籠もってるって話は、デビトが」
「成る程、あの三人がよく通っているわけか。しかし、引き籠もりとはデビトらしい発言だな」


愉快そうに喉を鳴らすジョーリィの感性は何年経っても理解の及ばぬものである。錬金術がどういったものか私は知らないけど、ジョーリィの性格からして人間に近いものを造り出すことも出来るのだろう。ルカが見せてくれるそれは、フェリチータお嬢様の喜びそうなものばかりな気も、するけど。


「…この子、ジョーリィにケーキを贈りたいんだって」
「ケーキ?…何かあったか、エルモ」
「ジョーリィには沢山お世話になってるから、お礼がしたかったんだ。大好きな人には贈り物をするって、お姉ちゃんに教えてもらって」
「それはまた――…お嬢様自身が行うからか…思いの外、期待をしていいのかもしれんな」
「ちょっと、店の前で怪しく微笑むの止めてよ。人来なくなるでしょ」
「閉店しているだろう」
「それでも」
「無茶を言う」


少年はエルモくんと言うらしい。
というかこの男はフェリチータお嬢様に何をする気だ。読めない表情にゆったりとした口調、静かな声色と怪しさを引き立てる要素しかないから考えは悪い方にばかり広がっていく。


「というか、誰かに聞かれたらどうするの?」
「エルモのことか?…そうだな」


普段から掛けているサングラスで見えにくい瞳は暗闇に佇んでいることで更に認識しにくいはずなのに、何故だか今だけは目が合ったとわかる。ジョーリィの唇が弧を描いたから、いや、さっきからこの男は笑っていた。


「君が母親ということにでもしておこうか」
「絶対嫌だ」
「クックックッ…冗談だ。まさかそこまで嫌がるとは、意外なことだが」
「全然意外じゃないと思うんだけど…」


何なんだよ、この人は。



end.

20121014

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