君が女の子になった日

なまえと向かい合って座るのは随分と久しぶりな気がする。わざわざ教室に顔を出したと思えば「話があるんだけど」だ。眉を寄せる俺に里志は全てを知っているとでも言いたげな笑みを一つ浮かべ、「千反田さんと摩耶花には伝えておくよ」とこれまた微妙に腹立たしい台詞を残して去って行った。

すっかり人のいない教室。何をするでもなく残っているということに限らず、なまえと俺はクラスが違う。故に教師に見つかると厄介な気もするんだが。話があると告げたのはなまえ、俺が先に声を発するのは違う。しかしだんまりのまま長時間且つ部活動はまだ終わらぬ時間に片付いてしまえば里志辺りに妙な言い掛かりをつけられそうではないか。それは不味い、考えただけで面倒だぞ(だからと、なまえを連れて部室に行くのも面倒の種でしかないが)。


「あの!奉太郎!」
「…おう」


返事が遅れたのは何やらなまえの挙動がおかしかったからである。こんな風に単語で話すようなやつではなかったはずだが、関わっていない間に変化したのだろうか。…ないな。ほんの数日前に話したぞ、間違いなく。


「奉太郎にとって私は、特別!?」
「どうした、唐突に」
「いやあのね、千反田さんに会ったんだけど、福部くんがそう言ったのを奉太郎も否定しなかったって、聞いて」


それで。次第に弱々しくなっていく声。なまえにしては情けない、俺の知るなまえらしからぬそれについ黙って見詰めると、これまた徐々に顔を伏せる。千反田の言葉は、そんなに突き刺さったのか。


「…確かに否定はしなかったな」
「それは、何で」
「何でって。お前は肉親でも恋人でもないが、普通の友人とも違うだろう。幼馴染みって関係は特別じゃないのか?」
「それだけで、」
「…お前が納得していないとしても、それが俺の答えだ」


伏せられていた瞳が上がり、随分と久しぶりになまえと目が合ったような気がした。見開かれてから焦ったように動く視線。珍しい反応に釣られて俺まで恥ずかしくなる。


「なっ、なんだ」
「ううん、何でもない!」
「ないってことはないだろう。明らかに何か、」
「え、じゃあそのっ、ありがとう…ってことで」
「何故はぐらかす」


強く。普段よりも強くそう言ったのは、なまえの表情が知らない人間のようで困惑したら、なのだろうか。


「…うん。私にとっても奉太郎は特別だよ」
「あ、ああ、そうか」


俺となまえの関係は、つまり。

こんな風に急に考えてしまったのも里志が余計なことを言い出したからに違いない。ああまったく、十数年守られてきた安寧が、ここにきて。



fin.

20121003

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