違う形になりたい

きらりと、思わず目を細めてしまう輝きを放つ大きな瞳。これは、駄目だ。


「みょうじなまえさん、ですよね?」


吸い込まれそう。見た瞬間に思ったのはそれ。奉太郎なら間違いなくたじろぐな、この子は。どちらかといえば苦手な部類だろう。私もあまり関わったことのあるタイプではない。何よりこの子は今日初めて顔を合わせたんだから、どう接するべきか悩むのも当然だ。それに加えて何故私の名前を知っているのかを考えながら「はい」と答えると、彼女の瞳はますます輝く。


「こうして顔を合わせるのは初めてですね。わたし、千反田えると申します。えっと…あ!折木奉太郎さんと同じ古典部に所属していて、折木さんからみょうじさんのお話を、ですね。…いいえ、正しくは福部さんでしょうか…」
「は、はあ…」


千反田える。
艶やかな黒髪を揺らしながら話す女子生徒は間違いなくそう言った。この子が、千反田さん。奉太郎が動くきっかけになっている千反田さんなのか。


「折木さんとは古くからのお知り合い、所謂幼馴染みの方だと聞きました。折木さんには、何時もお世話になっています」
「そっ、そうですか。それはそれは、こちらこ…そ?」
「とんでもないです!わたしは折木さんのお世話になるばかりで、折木さんのお世話をしたことなんてないですから!」


両手を振って必死に訴える千反田さん。彼女の言葉が不愉快だった訳ではなく、何故それなのかと。「何時もお世話になっています」だなんてまるで、私が奉太郎の親みたいじゃないか。記憶を辿ってみたところで奉太郎の世話をした覚えなんてないのに。寧ろそれは、私が奉太郎のご家族に言うべき言葉だ。


「…えっと。奉太郎から聞いてます、聞いてるって言えるほどでもないですけど、千反田さんの話」
「そうでしたか。わたしは福部さんや折木さん、そこに摩耶花さんが加わることもあって――…ずっと気になっていたんです、みょうじさんがどのような方なのか」
「そ、そうなんですか?」
「だって、折木さんと幼い頃から一緒にいる方ですよ?福部さん曰く、折木さんにとって唯一の親しい異性だと」
「唯一の、は違うような」
「折木さんも否定はしていませんでした。それに」


微笑むとさっきまでの子供っぽさが一気に薄れるんだな。何と言うか、すごく品がある。しかし思わず見惚れてしまいそうな微笑に添えられた言葉は、そんな千反田さんの表情を消してしまうくらい、私には衝撃的だった。


「みょうじさんは折木さんを――」
「えっ、ちょっと待って千反田さん!」
「はい?」
「今、奉太郎は否定してないって…」
「ええ、言いました。福部さんがみょうじさんの存在は折木さんにとって特別だと言ったとき、折木さんはそれについて否定はしていませんでしたよ」
「……奉太郎が」
「はい。あと、これは先程言おうとしたことなのですが。みょうじさんは、折木さんを下の名前で呼んでいますよね?折木さんもそれを拒否しない、十二分に親しい、素敵な関係だとわたしは思います」


やっぱり千反田さんの笑顔は綺麗だ。可愛くもあるんだけど、それよりも綺麗という印象が勝る。


「――千反田さんは」
「私が何か?」
「奉太郎と、どうなりたいですか?…変な質問ですけど」
「…みょうじさんのように、親しくなりたいと思います。みょうじさんのように呼んでみたいという意味ではありませんが」
「でも福部くんも」
「確かに、福部さんと折木さんの関係も羨ましいですね。…みょうじさんは?」
「私?」


奉太郎とは腐れ縁というやつで、それに奉太郎は自覚しているかも認めるかもわからないけど、千反田さんが。


「…私は、今のままでも、別に」


本当に、私はそう思っているだろうか。



20121002

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