男だと思い知らされた日

「何してるの奉太郎」


背中を丸めているのは間違いなく奉太郎で、名前を呼ぶと彼は気怠そうに顔を上げた。蟻の巣でもあったのかな、いや、あったところでしゃがんでまで観察するような人間ではないはずだ、奉太郎は。


「…帰りか」
「うん」
「俺は、調査だな」
「調査…えっ?」


私が驚きを見せると奉太郎は眉を寄せる。「悪いか」と言いたげな顔だ。まあ、悪くはないんだけど。


「面倒には首突っ込まないって」
「それには些か語弊があるから訂正をさせてもらうが。俺はやらなくてもいいことはやらない、やるべきことは手短にという主義であって、面倒事を避けて通るわけじゃない」
「そうかなあ…」


思いっ切り嫌そうな顔してるの、何度も見てる気がするんだけど。そのときの奉太郎といえばどう考えても「面倒です」と全面に押し出していた。あれは私の勘違いだったのだろうか。


「まあいいや。で、調査って?」
「千反田がな」
「千反田って古典部の部長の?」
「ああそれだ。俺はその千反田以外を知らん」
「私もその千反田さん以外知らないや」
「ん。…それでだ、千反田の」


千反田さん、確か下の名前はえるだったか。えるなんて珍しい名前だなあと思ったのは奉太郎に彼女の名前を教えてもらったときだ。お姉さんに言われて古典部に入部したという晩、部活はどうだったかという話になったときに耳にした。


「持病が発動した」
「じっ…え、薬でも作るの?奉太郎」
「何故そうなる」
「いやだって、」
「あいつは好奇心旺盛なんだ。その好奇心が爆発したという話であって、別にあいつが病を患っているという話じゃない」
「あ、そうなんだ」


一瞬、どこから得たのかわからない知識を駆使しているのかと。そんなことを考えていると奉太郎が「ある意味で重い病だがな」と愚痴るように零した。そこまで言うなら、千反田さんの好奇心は奉太郎にとってやらなくてもいいことに該当するのではないだろうか。とても、手短に片付くとは思えないし。


「なら聞かなきゃいいでしょ」
「諦めろ、我慢しろと言ったところで聞くなら俺だって構わんさ」
「ふうん」
「一度スイッチが入るとどうにも――……まあとにかく。皮肉なことに、千反田の好奇心の熱を冷ますのが時間のかからない最善の手段というわけだ」


千反田さんについて話そうとした奉太郎が何を思い出したのかはわからないが、何故だか言葉に詰まった上に照れているような、気が。私の発言は至って普通。目下話題なのは千反田さん、それってつまり。


「――奉太郎」
「何だ?」
「千反田さんの目って、綺麗?」
「は?」
「摩耶花がね」
「………冷や冷やするの間違いだ」


居心地悪そうに外れる視線、こんな奉太郎、初めてだ。



20120930

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