楽しいのはきっと楽だから?

手を振る姿は特定の異性が見れば卒倒間違いなしの可愛さなんだろう。しかし腐れ縁と称して差し障りない年数を過ごしてしまっているからか、はたまた彼が折木奉太郎であるが故か、ホータローは見慣れたそれと何ら変化のない表情でなまえと別れの挨拶を交わしたらしい。


「ホータロー、君は個人的な怨みを買っているかもしれないと意識しておくべきだよ」
「怨み?まったく覚えがないんだが」
「私怨だからね。まあ僕に可能なアドバイスは、あまり気怠げになまえの相手をしないこと、かな」
「何故俺があいつ絡みで怨みを買う」
「特定の人物からしてみれば、ホータローのポジションは喉から手が出るくらい羨ましいものなんだよ」


不快そう、いや、意味がわからないと口にする前の表情だ、これは。僕にだってホータローの考えはよくよく理解出来るさ。恋愛事の好く好かないなんて誰かに操作されるものではないし、ホータローはなまえを誰にも渡したくないから腐れ縁を演じているわけではないのだ。

僕から見てホータローのなまえに対するあれこれというものに変化はない。強いて言うなら、僕が二人を目にした中学時代から制服が変更された。その程度だね。


「それ以上に目指す位置はないのか、そいつには」
「当然、最終目標は恋人さ。そのための絶対的な障害が折木奉太郎、と」
「あのなあ里志」
「時にホータローは」
「何だ?」


そういえば、ホータローは部活に行くつもりだったのか。なまえも驚いただろうね、普段のノリで「部活だ」なんてホータローが言うんだから。


「言い値で買うからそのポジションを売ってくれ!と情熱的に懇願されたらどうするんだい?」
「…売れるものじゃないだろう」
「仮にだよ。想像力を働かせたまえ、折木奉太郎君」
「誰だそれは」
「さあね」


嘆息。何と言うか、「お前なんかがなまえさんのー!」と突撃をされたとしても「おお」で終わりそうだ、ホータローは。相手の怒りが空回りする様が容易に想像出来る。


「………断る」
「それは何故?」
「楽だからだ、なまえと過ごす時間は」
「ホータロー、刺される覚悟もしておくんだね」
「――里志、聞きたいんだが」
「うん」


これも仮定。僕がなまえに想いを寄せていたら、ホータローに対して腹を立てつつも楽勝だと思うことだろう。こんなにやる気のない恋敵、意識するだけ無駄だ。


「俺を怨んでいる人間は誰なんだ」
「いないよ、そんなの」
「は?」
「ホータローの想像力を養おうかと思ってね」
「……。まあ、俺の安息は保たれるということか」
「何だいそれ」


なまえは抱き枕とか、そういうのじゃないんだからさ。



20120904

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