強いて言うなら家族のような

「ホータローにとって、なまえはどんな存在なんだい?」


潜んでいるのは好奇心、寧ろそれ以外の感情が存在するなら教えてほしいとさえ思う。俺の向かいに腰掛けた里志は何処か大袈裟な振る舞いでそう問うてきて、恐らく「さあな」と返せば「実にホータローらしい答えだね」と笑うのだろうと感じさせた。何とも想像に易い。


「里志、俺とお前の付き合いは浅くはない。つまりお前となまえの付き合いも浅くないという結論にはならんのか?」
「問題なのは僕となまえの関係じゃないよ」
「わざわざ言わずともわかるだろうと言っているんだ」
「ホータローの口から聞いてみたいと思うのは我が儘なのかい?」
「…そうとは言わんが」
「なら答えをくれても構わないと僕は思うね」


何故にこいつは勝ち誇ったような顔をしているのか。それに、尋ねるにしては内容が今更過ぎる。何がそんなに里志を駆り立てるのやら、俺にはさっぱりわからん。


「僕はね、ホータロー。ホータローが名前を呼び捨てにするだけでもかなり特殊だと思うわけだよ」
「…そうか?」
「付き合いが長い、確かにホータローはそう言ったね。そこで一例を挙げさせてもらうけど、摩耶花とは小学生時代から同じクラスという付き合いだろう?」
「なまえはそれ以上だ」
「摩耶花よりも短い僕は名前なのに?」
「伊原が異性だからじゃないか」
「なまえも」
「だから――…何だ。つまり、」


なまえの話題は里志にとって興味を引くものだったのか。そう思うと同時に過ぎったのは「この場に千反田がいなくてよかった」である。あいつがいたならお得意の「わたし、気になります」だ。そこに里志が便乗して、いつの間にやら俺となまえの昔話披露会になっているに違いない。ただの恥曝しじゃないか。やらんぞ、俺は。


「…家族、だからだ」
「正しくは家族のよう、だろう?」
「その細かい訂正は必要なのか?」
「ホータローの答え方次第ではね」
「俺の?」


里志め、もう少しわかりやすい言葉を吐き出せ。


20120901

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