となり、いいですか

隣の人が心優しい人でよかった。お蔭さまで講義には間に合ったし、レポートも無事に提出出来たのだ。「ありがとうございます」の言葉に彼はただ軽く笑って手を振るだけで(友達と思しき人は顔を顰めていたけど)、そのまま下車。あの駅を主に利用するのはこの大学の人だけど彼は一体。見たことあるようなないような、何とも曖昧だ。


(…綺麗な髪だったな)


必要事項をメモしながらも過ぎるのは彼のこと。背も高くて体格もよかった。二人揃ってスポーツでもやっているんだろうか。躊躇いもなく肩に寄り掛かっていた私に苦言を呈することもなく。あんな風に爽やかに笑われては、戸惑う。


(こう、染めてるって感じじゃなくて。天然の)


校内で見掛ける金髪とは違うんだ。日差しに透ける色がすごくすごく綺麗で、あれはもう釘付けというやつだろう。単純人間みたいだけど。


(ああいう人の声ってどんな感じなんだろう。…半分寝てたから覚えてないな)

「君」


とん、と。
耳慣れない甘やかな声と共に肩に掛かる軽い衝撃。飛び跳ねた体に届いたのは笑い声だ。電池切れのおもちゃのように首を回すと今度は心臓が飛び跳ねた。発しそうになった大声を、ぐっと飲み込む。


「……あ」
「講義には間に合った?」
「は、はい、お蔭さまで…」
「それはよかった。…いいかい?」
「え?あ、ああ。どうぞ」


彼が示したのは隣の席。広い図書館なら空いている場所なんて沢山あって、現に私の隣どころか向かいも先の机もガラガラだ。精々、二、三人が座っているくらいで。


「…あれ?お友達は」
「友達?ああ、あいつは学年が違うからな。真面目に出てりゃ今頃講義だ」
「暇潰し?」
「纏めておきたい資料があってね。ま、暇潰しと言えば暇潰しかな」
「はあ。…私は、レポートがありまして」
「それでここに。成る程、今日は女神が微笑んでくれたというわけか」
「は、はあ…」


素でこんなこと言う人に出会ったのははじめてだ。何かこう、むずむずするな。右往左往する私の視線とは正反対に、少し(大分か)気障な人は落ち着いて私を見ている。せめて本を、と叫ぶのは私の心臓に違いない。


「見覚えがあると思ったら」
「え」
「同じ講義を取っていたとはな、今日まで気が付かなかった」
「同じ?さっきの、ですか?」
「電車で見た子がいるって驚いたよ。…おれはシーザー・A・ツェペリ。シニョリーナ、君の名前は?」
「ええっと、みょうじなまえ…です」


綺麗な金の髪。ああそうか、時々視界に捉えていた。



20131018

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