「少し高い、のかな?」
「うん」
何とか授業中は気力を振り絞っていたが、すべてを終えたあとは糸が切れたように机に突っ伏してしまった。言葉に甘えて友達と帰るんだったと後悔していたところ肩を叩かれ、山田くんと目が合ったのである。
その後は何を言ったのかも言われたのかもいま一つ覚えていない。今、山田くんの掌が触れていることは理解しているけど。
「もう帰るだけだけど、念のため保健室に寄って行った方がいいんじゃないかな。せめて、熱くらいさ」
「…うん」
「…大丈夫?」
「……うん」
「なまえちゃん」
「………ん」
一度具合が悪いと思ったが最後、実際はそこまでではないだろうに重度の病気であると錯覚してしまう。腕が上がらないよ、立つのも辛いよ。声にしていなくてもこれでは「察して」と山田くんに言っているようなものだ。それを嫌らしいと思う心も、今はない。
「…付き添おうか?」
その溜息の意味は呆れなのか違うのか。そこまで交流があるわけではないから、投げ掛けられた言葉に一瞬どう反応したらいいのかわからなかった。取り敢えず山田くんを見て、いや確かに、遠回しに付き添ってと言っているようなものだったけど。
「え」
「俺ももう少し学校にいなきゃいけないし、なまえちゃんが立てそうなら」
「あ、え、う、うんっ!」
「手――…肩の方がいいかな?」
「手っ!手でいい!」
「わかった」
山田くんの手と私の手が触れ合う。ざわざわと、沸騰するような感覚だ。そんなに話したこともないのに、沸き上がってきた想いは山田くんに対する好意に他ならない。
「…山田くん」
「ん?やっぱり辛い?」
「好き」
丸くなった山田くんの目。伝えてみたら、気持ちはすごく落ち着いた。
end.
20120829