夏樹

このところ夏樹と一緒にいる三人よりも、私の方が付き合いは長い。それは勿論、さくらちゃんや保さんといった血縁者と比較したら深くないし時間も短いけど、ハルくんに真田くん、山田くんよりは夏樹を知っているし夏樹も私のことを知っている。

まあ、だからなんだという話なのだが。


「何だよ」
「釣り、行くの?」
「行くから離せって言ってるんだろ」
「……」
「ああもう!だから何だって!」


苛々している。保さんと真理子さんに変化があってから苛々することが増えた夏樹は、最初のうちはハルくんと真田くんにも苛立っていた。そんな夏樹にも、悪いやつではないけど付き合いにくい雰囲気があるからと納得していたのに。


「わ、私、先生に水やり頼まれたの!」
「は?」
「花壇に水やってくれって。…その」
「…手伝えって?」
「そっ、そう!」
「断る。何で俺が」


私の言葉に夏樹が苛立つのも当たり前だ。同じくらいの年齢の釣りが出来る相手なんてこれまでいなかったから今が楽しくて、きっと皆で釣りをしている間は嫌なことを考えずに済むんだろう。

元々好きだったものに更なる要素が付加されたとなれば、それを蹴っ飛ばしてまで私に付き合う必要はない。というか、私だから余計にと言える。


「えり香に頼めばいいだろ」
「えり香は手伝いがあるじゃん…」
「俺だってバイトあるし」
「今日はないくせに!」
「どの道ユキ達との約束が先だ!」
「うっ」


夏樹の制服から手が離せない。夏樹が怒っているのは理解しているし、別に夏樹に私を優先しなくちゃいけない決まりもないんだ。そりゃあ自分のことを考えて不思議はない。保さんやさくらちゃんのように家族ではなく、友達らしい三人より少しだけ付き合いの長い友達というだけだ、私は。

そりゃ、付き合いだけが長くて趣味の合わない人間よりは趣味の合う相手と一緒にいたいと思うよ。夏樹の思考は至って自然じゃないか。


「…構ってよ」
「文句があるならはっきり言えよ、聞こえな――」
「構ってって!最近は真田くんばっかりじゃん!」
「何でそこでキレるんだよ!?」
「寂しいんだもん!!」


小学生かよ。
呆れたような夏樹の呟きに、私もただただ頷くことしか出来なかった。



end.

20120829

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -