愛情

この瞬間がもどかしい。
JFXを釣り上げることが出来るのはユキとハル、俺では意気込んだところで何も出来ない。こうやって船を操縦することも重要ではあるが、進展のない状況に焦りを感じているのも事実だ。


「不味いな…随分と荒れてきたぞ」
「グワッ!」
「別に信じてないわけじゃ、ただ、」


JFXの力は強大で、操られた仲間による誤射も目の当たりにした。死人こそ出なかったものの、俺達の自由が利かなくなるのも時間の問題じゃないかと思う。


「…特に、ハルの協力は不可欠なんだ」
「ガァ」
「俺でいいならそうしてる」
「ガァ、グワッ」
「ああ、ユキはやる。俺だってそう思ってるさ」


狙いは間違っていないはずなのにJFXは食いつかない。俺よりもユキ本人の方が焦っているだろう。冗談抜きで、世界の命運があいつにかかっているんだ。

まあユキの場合世界というよりはもっと身近な、ハルへの感情なんだろうが。


「……タピオカ」
「グワ?」
「なまえちゃんは無事かな」
「…ガァ」
「え?…確かに姿は見たが。声を掛けたらそれこそ、一緒に行くとか言い出すだろ」
「グワッ」
「仲間…いや、なまえちゃんは仲間というか」


ユキが竿を振る。夏樹は険しい顔をしている。ハルは操られまいと必死に意識を集中させている。

ああ、また四人で釣りが出来たら。今考えるにしてはあまりに場違いな思いだが、いつの間にやら俺の中で江ノ島という場所は特別になってしまったらしい。


「……それも話すさ、ちゃんと。JFXを釣り上げて戻るって、約束しただろう」


俺が守りたいのは世界でもあり江ノ島でもあり、この手が届く範囲の人達なんだ。



20120709

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