手紙

夏樹くんどころかその周辺の人達がいないと思えば、不安げなさくらちゃんを真理子さんが優しく撫でているのを見つけた。恐らくその環境から大人っぽく感じるさくらちゃんも考えてみれば小学生、何も不思議はない光景なんだと今更ながらに思う。


「あ、なまえちゃん」
「こんにちは、さくらちゃん。…真理子さん、何かあったんですか?」
「なまえちゃんは夏樹くんとは――…そうね、話す時間もなかったのかな」


真理子さんとさくらちゃんが向かって来た方向には特別教室があったはず。夏樹くんの名前が出たということは、たった今まで夏樹くん達と一緒だったということだろうか。


「夏樹くん、どこかに行ったんですか?」
「…江ノ島に」
「江ノ島っ!?」
「なまえちゃん声大きい!」
「ごっ、ごめん…」


しーっと指を立てて表情を険しくしたさくらちゃんを怖いとは思わないけど、申し訳ない気持ちにはなった。しかし江ノ島、何でまた。保さんに海咲さん、歩ちゃんも一緒なんだろうか。そういえば、えり香ちゃんとお爺さんもいない。


「関係あるんですよね、この騒動と」
「うん。釣らなきゃいけないとか言ってたかな」
「釣る…」


釣るって、アキラくんが私に話そうとしてくれたことと何か関係があるのかな。それも会ったら聞かなくちゃ。


「そうだなまえちゃん」
「どうしたの?」
「これね、タピオカがくれたの。あげる!」
「タピオカが?さくらちゃんにじゃなくて、私になの?」
「もらうときになまえちゃんの名前が見えたから」
「そっか。ありがとう」


四つ折にされた紙を広げると、そこには間違いなく私の名前が書かれている。…この紙。


「…アキラくん」


中途半端に文字が書かれたそれは、きっと渡すつもりなんてなかったものなんだろうけど。



20120709

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