約束

水で人を操る未確認生命体。そんな放送を聞いて浮かんだのはハルくんだ。

最近はすっかり見ないけど転校初日に真田くんに向かって放水していたし、真田くんは急に踊りだした。操られての行動だとしたら納得、そんなことが現実にあるのかはまあ、深く考えてはいけない気がする。だって――…あれは、黄色いスーツだろうか。そんな妙なものを着た団体がいる世界なんだから。

しかもその団体が言うには今は水に触れてはいけないらしい。一体どうやって生活しろと言うつもりなのか。…それにしても。


(なっ、何が起こってるのっ…!?)


夏樹くんのところでしらす丼を食べようと思って外に出た。向かう途中に未確認生命体がなんだという放送を聞いて、黄色い団体を見て怖くなったから反射的に隠れた。そうだ、それが今の状況。


(あれ何、宗教団体!?というかドライヤー?ドライヤーだよね…!?)


寧ろあれが未確認生命体。捕まったら変な建物に連れていかれて洗脳されるんじゃないかと疑いたくなる。あの人達が歩く度にピヨピヨサンダルよろしく音が鳴るのがまた怖い。


「あ、いなくなった…」


どこに向かったのだろう。基本的に団体行動なんだな、あの人達は。


「…しらす丼無理だよねこれ。お母さん達大丈夫かな、一端もどっ」


家に帰ろう。そう結論を出して振り返ると、団体行動が基本なはずのスーツ人間が立っていた。一人で。

どういうことだ、何でここに。というか私は何も知らない、未確認生命体って何だレベルで、だから。


「おっ、お願いします食べないで!!食べても美味しくないですしっ、あ、あの、壺とか買うお金もないですから――…!」
「えっ?」
「そっ、そう!両親はもういないんです!だからお金を巻き上げようなんて考えてもむ、」
「なまえちゃん、お母さんの話してたよね?前」
「ななななんで私のなま、えっ……あ、れ?こえ、」
「グワッ!」


耳に馴染んだ声、そしてアヒル。この声でアヒルを連れた人物は一人しか浮かばない。捜したって今浮かんでいる一人以外はいないんじゃないか、と思う。


「……アキラ、くん?」
「そうだけ…あ、そっか。これで話し掛けられてもわからないよね。ユキにも驚かれたのに、」
「アキラくんだあ!」
「なまえちゃん何で泣きそうに――…うをっ!?」


ヘルメットと呼べばいいのか、そこが外れた瞬間に目の前にいたのはアキラくん。本当に本当にアキラくんだ。急に込み上げてきて爆発しそうな感情のまま飛び付くと、珍しい野太い声と共にアキラくんの身体が大きくぐらつく。

しまった、と思った頃には私が押し倒したような形で、タピオカが励ますように鳴いてくれなければ恥ずかしさで死ねたに違いない。


「ごっ、ごめん…!」
「いや、普段なら倒れないんだけどさ。あっ!別になまえちゃんが重たいわけじゃ、ただ俺が油断してただけだから…普段は軽く受け止められるんだよ、本当に」
「うん、アキラくんだもんね」
「俺だから?それも何というか、いや。いいけど」
「うん」


コロコロと変化していたアキラくんの表情は一通りの会話を終えると真剣なものになる。なまえちゃん、多分呼ばれただろう私の名前。まったく力にはなれなかったけど、胸の内を告げられた夜を思い出した。


「ハル、見なかった?」
「ハルくん?…ううん、見てない」
「そっか。…あのさ」


真っ黒な瞳は相変わらず何を考えているかわからない。それでも居心地の悪さではなく好きだと、そう思えるくらいになったらしい。


「決めたよ、俺」
「決めた?」
「うん。だから俺はハルを捜す」
「私も」
「避難命令が出てるから、なまえちゃんも行かないと」
「アキラくんは、…ああ」


どう見たってあの団体の関係者、だよね。顔を見てすっかり安心していたけど、妙な団体じゃないと決まってはいないんだった。


「な、何、その目。俺は怪しい人間じゃ、」
「アヒルと話すのに?」
「それは関係ないと思う」
「でも、その恰好だけでも充分に怪しい」
「これ、は…なまえちゃんにはどこから説明したらいいのかな…」
「説明、してくれるの?」
「勿論」


かっこいいな、首から下を見なければ。見た目で人を判断するべきではないけど、これはかっこわるいとか趣味じゃない以前に間抜けに見える。もっといえば笑いそうになる。反則だよアキラくん。


「…なまえちゃん?」
「あっ、いやいや」


ごめんなさい。
疑いの眼差しを向けてくるアキラくんに心の中で謝って、一呼吸。実は人間じゃないんだ以外はそこまで驚かないよ、多分ね。


「ねえ、アキラくん」
「何?」
「また会ったら、アキラくんのこと聞かせて」
「会ったら、って」
「私は避難でしょ?だから、全部終わったらもう一回話したい。もう一回というか…もっと」
「――…わかった。約束」
「約束」


ゆびきりするかを尋ねると、意外にもあっさり頷いてくれた。



20120618

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