相談

「あ」
「あ」


相変わらずぬいぐるみみたいに大人しいタピオカとそれを抱えるアキラくん。最近よく会うなと思うのは、私だけだろうか。


「夜にもタピオカの散歩するの?」
「いや今日は…なまえちゃんは、散歩好きなの?」
「私は何となく、海が見たくなって。ちょっと近くまで行こうかなと」
「……俺も、いいかな」
「え?」


間を置いてからの発言。
相変わらず無表情に近い顔から零れた発言に普段よりも声が高くなる。アキラくんはそんな反応に何を懸念したのか、「いや、変な意味はないけど」と私以上に安定しない声で返してきた。変な意味って、自意識過剰とか言われそうな勘違いは、流石に。


「じゃ、じゃあ、行く?」
「…邪魔じゃなければ」
「そんなことは」


私と擦れ違う形で歩いていたアキラくんは数歩分だけ私に近づくと同じ方向を見る。帰らなくてよかったのかな、この状況はまあ、嬉しいんだけど。


「……ちょっとね」
「ん?」
「歩ちゃんいるかなって、思って」
「歩…ああ、あの人。何で?」
「色々」


アキラくんのことを話したくて。勢いで吐き出そうとした言葉は喉元で急停止、飛び出すことをあっさりと拒否された。

他に大して浮かばず適当に口にした「色々」だったけど、アキラくんも気にした様子はなく「色々か」とまるで独り言のように呟く。その中には何だか寂しさも混ざっている気がして、聞きたくなるけど声は出ない。多分、やんわりとでも拒絶されるのが怖いんだ。


「相談しようと思ってたんだ」
「よく許可が出たね、こんな時間に」
「家族揃って歩ちゃん大好きだから。全面的に信用されてるんだよ」
「そっか」


呟くようなアキラくんの返答にタピオカの声が重なる。大人しくしていたはずのタピオカは思うところがあったのか、両翼を精一杯伸ばして何度かばたつかせたではないか。思わずタピオカを見るとアキラくんの咳払い、横顔の印象は簡単に言えば不機嫌、かな。


「タピオカ何て?」
「……別に」
「…タピオカ?」
「グワッ!」
「んー?」


アキラくんは何か言いたそうにしているけど私には欠片も理解出来ない。いつも結構重要なことを言っているとは思うんだけど、私もアヒルを飼っていたらわかったりするのだろうか。


「タピオカは気にしなくていいよ」
「そう?」
「そう」
「…アキラくんが言うなら、いっか」
「うん」


アキラくんがいるなら歩ちゃんに会いに行く計画はなしだ。しかし、夜に二人で海を見るって恋人っぽい…とは限らないよね。友達同士でも行く。恥ずかしいな、気づかれてはいないけど。


「…………さっきまでさ」


続いた静寂を台無しにするでもない、小さな小さなアキラくんの声。一瞬勘違いかと思って返事をせずに彼を見ると、元々期待をしていなかったのか再び口を開いたところだった。


「夏樹の妹、さくらちゃんを捜してて」
「えっ、そうだったの?さくらちゃん、」
「無事に見つかった」
「…ああ」
「それで、ハルと話す機会があったんだけど」
「ハルくんと?」


アキラくんが音にした名前を繰り返すと彼はゆっくりと頷いた。何でさくらちゃんを捜していてそう。引っ掛かりはするけど、今は尋ねるべきじゃない。


「……どうすればいいのか、よくわからなくなった」
「…それって?」
「なまえちゃんだけじゃなくて、誰に話しても仕方ないんだけどさ」
「う、うん?」
「個人的な感情だけじゃ駄目なんだ。だから纏めようと、…ごめんね」
「いや、…うん」


適当に答えるわけにも、これだけの情報で素晴らしい回答をすることも出来ない。ハルくんのことでアキラくんは悩んでる、それはアキラくん一人が判断していいことでは、なくて。


「…アキラくんとハルくん、夏樹くんとか真田くんも、だけど。友達?」
「友達?…どうかな」
「この前一緒に釣りしてるの見て、そうかなと思ったんだけど。楽しそうだったし、アキラくん」
「そうかな」
「そうだよ」


私は、なんて。
それを聞くのは場違い過ぎるというのは言い訳で、単純に勇気がないだけだ。



20120610

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