変化

さっきからハルくんはリフティングをしていて、どうやら釣り道具は持って来ていないようだった。前は真田くんと練習してなかったっけ。

そして目の前のアキラくんは先程からハルくんの動きを一つも逃すまいというような、警戒していると誰でもわかるような睨みを利かせている。一体何があったのだろう、二人に。


「夏樹くん、真田くん、釣れた?」
「いや、まだだな」


こちらをちらりとも見ずに答える夏樹くんと勢いよく振り向いて視線をさ迷わせる真田くん、何とも対照的な反応だ。誘われたわけでもなければ誰かに用事があるわけでもなく、現に「じゃあ帰れよ」と夏樹くんに言われてしまってもいる。ハルくんと真田くんの「いいじゃない」の言葉に甘えて何となく残ってしまったわけだけど、炎天下の中ただ座っているのは少し辛くなってきた。


「なまえちゃん」


帽子持ってくればよかった。そう考えていると不意に出来た影。地面に落としていた視線を上げると、その声の通りアキラくんだ。


「…アキラくん?」
「多少は日除けになると思うから、使って」
「でも」
「俺は大丈夫。雨も降るかもしれないし、丁度いいよ」
「……うん」


随分と可愛らしい明らかに日傘ではないそれを受け取るとアキラくんが微笑んだ。これはいけない。認識した途端、苦しくなる。


「大丈夫って、でも。アキラくん汗すごいよ」
「えっ?いっ、いや、これは別に…」
「やっぱ暑そうだよなあ?無理しないで脱いだらいいだろ、アキラ!」
「むっ、無理はしてない」
「どうだか!」


楽しそうに弾む夏樹くんの声。よく見ると真田くんも笑いを堪えている。まるで友達同士のような響き、真田くんのお祖母さんの退院祝いをした話然り、いつの間にかアキラくんは皆と仲良くなったみたいだ。

そのことに関して私が嬉しいとか寂しいとか、いちいち考えるような間柄ではない、のに。


「……」
「なまえちゃん?」


間抜けな顔しちゃって。
ああやって夏樹くんが軽口を言えるのは同性だから、いや、性別はあんまり関係ないか。三人とも普通にアキラって呼び捨てにするし、えり香ちゃんだってアキラくんって呼ぶし。何も特別なんかじゃ。ああもう、そうやって考えてしまうのがまた嫌だ。


「アキラくん」
「何?」
「…飲み物買ってくる。何飲みたい?」
「飲み物?」


私は少しでも、特別になれているんだろうか。



20120608

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