夏休みのある日のこと。
頼まれた買い物を終えて家を目指していると、よくよく見慣れたいくつかの人影があった。そういえば、歩ちゃんは釣り船を。夏樹くんは去年も手伝いをしていたみたいだけど、今年は真田くんとハルくんも参加していたのか。
「あ」
そこから少し離れた位置。やっぱり足元には白い塊がいて、彼はこの暑いのに長袖を着ている。背負っているのは釣竿だろうか。釣りには詳しくないからよくわからないけど、夏の暑い日でも山田くんのような恰好は不思議じゃないのかな。夏樹くん達は、ラフだけど。
「………」
ここ最近、海咲さんのとこに行ってもその周辺を歩き回っても見掛けなかったのはこれか。山田くんも連日釣りに行っていたのだろう、歩ちゃんの船で。
歩ちゃんの言う「美咲さんへの想いと同じもの」を私が山田くんに抱いているのかははっきりしない。お近づきになりたいと思うのも、あんな風に目を引く出で立ちだからだと思う。歩ちゃんは「それもまた青春だ」なんて言っていたけど。
「山田くん」
逃がさないように、転ばないように駆け寄って呼んでみる。こっちを見た山田くんは「ああ」とでも言いたげな表情だ。足元のタピオカが「グワッ」と鳴くと、山田くんは視線をタピオカに遣りながら私へと身体を向けてくれた。
「釣り?」
「まあ」
「好きなの?」
「…いや、仕事、というか」
「仕事?歩ちゃんのとこでバイト?」
「それとは違うかな」
「ふうん…」
奥では四人が動いている。ハルくんは相変わらずくねくねと、あの三人、仲良かったんだなあ。
「で、何か用?」
「いや、別に用は…見掛けたからさ、挨拶しようかなって」
「向こうは」
「山田くんに挨拶しようと思ったから、こっちに来たんだけど」
「…そう」
ペタペタと、タピオカが少しだけ私に近づく。さっきより小さい声で鳴いたタピオカは何か伝えたいんだろうか。残念ながら、私にはこれっぽっちも理解出来ない。
「………」
「じゃあ、帰るから」
「あ、」
「何?」
「わっ、私も帰るとこ、なんだけど!…一緒に、いい?」
「…………え?」
そりゃ、驚くよね。
20120517